やり残した事

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徒歩圏内に大きめの手芸屋があるとの事で、スタスタと足早に歩く姉の後ろを、俺は必死について歩いた。 なんとなく名前は知っているその店で、姉は何かに導かれるようにフロア内をスムーズに進んでいく。反対に俺は初めて目にする素材や布生地に目を奪われながら見回っていた。 先に進んでいた姉は、もうすでにいくつかの布生地を手にしている。無言でそれを俺に押し付けると、今度はキラキラと光るダイヤのようなビーズに釘付けだ。 「なぁ、姉ちゃん。生地ってこれ…レースだけ? 中に何か着ないと透けない?」 「あはは! それだけで作るんじゃないよ。ベースになるワンピースも後で買うから」 迷いもなく次々と素材をかごに入れていく姿は、なんだか生き生きとして見えた。 「姉ちゃん…なんか楽しそうだな」 「……ふふっ。うん、楽しいかも。昔を思い出すよ。私、ドレスとか服作る人になりたかったんだよね」 「あぁ、そういえば学生の頃言ってたかもね。よく姉ちゃん服切ったり縫ったり、リボン付けたり…」 中学の頃だったか、姉はやたらとファッション雑誌を眺めては、自分の服を持ち出してリメイクをしていた。その服が高かろうが関係なく切っていたので、よく母が悲鳴をあげていた。叱られても本人はいつも満足げだった。
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