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途中休憩を入れつつも、作業は数時間続けられた。
気がつけば日が落ち始め、空は朱く染まっていた。
「ふぅ! 今日はこんなところかな。久々にやったから、ちょっと手間取っちゃったけど、完成まであと少しね〜」
姉はグルーガンを片手に、額を拭う素振りをした。俺は早くから音を上げそうになったが、好きな事をする姉の集中力は凄かった。
白くふんわりとした丈の長いワンピースの上に、薄いレース生地を重ねただけでもドレスっぽさが出た。
そこに二人で黙々と付けたラインストーンが瞬く星のように輝く。俺はそれだけでも十分だと言ったが、姉としてはまだ装飾にこだわりたいようだった。
「あとの仕上げは私やっておくし、完成したら取りに来てよ。今週中には終わらせるから…それなら間に合うでしょ?」
「えっ? あ、あぁ…うん。ありがと」
礼を言いながらも、内心戸惑っていた。
ドレス完成まで、俺はどこにいたらいい?
自宅に帰って「当時の俺」に成り変わる事も考えたが、ボロが出そうで怖かった。
それに「当時の俺」には、憑依による体の負担なく、普段通りの仕事をさせておくのが一番安心だと思う。
「今日はありがとな、姉ちゃん。和志くんにもよろしく…」
「えっ…!? あれ? 言ったっけ、和志の事…」
――しまった。さっそくボロが出た。
和志くんとは、姉がこの頃同棲を始めた年上の彼氏だ。引っ越しの手伝いに呼ばれた時も彼の姿はなく、紹介されたのは、今よりだいぶ後の事だった。
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