今宵、迷える旅行者は

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今宵、迷える旅行者は

目的もなく、ただただ歩き、辺りがすっかり暗くなった頃、広い公園に辿り着いた。 誰もいない公園の遊具を敷地内の外灯が照らしている。その中に一際目立つ大型の滑り台があった。 大きく口を開けた「クジラ」の遊具。口の中がトンネルのようになっていて、体の真ん中辺りに上へ登る梯子が付いている。 それを登り切ると、クジラが潮を噴き出すように両端に分かれた滑り台へと辿り着く。 何度か塗り直されたようなペンキの跡をなぞり、俺はそこを今夜の寝床とした。 寝床とは言ったものの、眠くもない。腹も空かなければ暑い、寒いという感覚もなかった。 改めて「普通ではない」と言うことを感じさせられた。 「よいしょ」と無意識に声に出しながら、梯子を背もたれにクジラの腹の中に座った。 俺はぼんやりと、そこから見える景色に目をやった。 車通りも少なく静かだが、時折仕事帰りなのか数人が近くの歩道を通っていく。そのうちの何人かと目が合いそうになって咄嗟に俯いた。 ――やっぱり、見えてるんだよな? 今の俺は。 ここに存在しているのに、生きていない。誰もが見られる幽霊と化しているんだ、俺は……。 その後はこれまでの事、これからの計画を頭の中で悶々と考えていた。数時間は過ぎただろうかという時、近づいてくる自転車の音と光が見えた。
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