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K宅にて
それから一週間が経過した日の昼頃。昨晩から深夜帯を含む午前中いっぱいの時間を使い、大学の課題を仕上げて疲れ果てていた私の元に、Kから電話が入った。自宅での麻雀へ私を誘うKの声は妙に明るく上ずっていたが、一週間前の彼の様子を思い起こせばその差が些か不気味であった。だが、バーに彼を置いて帰ってしまった罪悪感と、夕食に出してくれるという特上寿司の誘惑に負け、結局私は参加を了承したのだった。
私がKの自宅に着いた十四時頃には既に、Kと他二人の面子は三麻に興じていた。他二人の面子である、縁なし眼鏡を掛けた二十代後半位の男と、怠惰萎靡な風貌だが目つきの鋭い中年男と卓を囲むのは今日が初めてであったが、私は彼等の事を知っていた。突如現れた女に敗れ、その伝説の糧となってしまった電脳と八連荘だ。
この日のKは夕食の特上寿司の他、高級な酒と肴を大量に用意してくれる等、大盤振る舞いだった。無理矢理散財する事で、失恋の傷を癒そうとしているのかもしれないと思ったのと、バーに置いて帰ってしまった事に対する謝罪も兼ねて、私はKに「無理をしなくていい」と言ったが、意外にも彼の反応は平然としたものだった。
「大丈夫。俺はもう、あんな不義理な女の事なんざこれっぽっちも気にしちゃいない。どうでも良くなった。俺はただ、お前等と楽しい時間を過ごしたいだけさ」
今思えば懸命な強がりだったのかもしれないが、そんなKの様子を見て、私は少し安心したのだった。
夕食も終え、何回目かの半荘が終わり、時刻が二十一時を回った頃だった。Kは眠気覚ましと称して私達三人にコーヒーを淹れてくれた。それを飲み終え、新たな半荘を始めた時、私の身体に異変が生じた。瞼が突如として猛烈な重量となり、閉じられてしまったのだ。
「…………おい…………おいっ」
何度か軽く頬を叩かれ、私は目を覚ました。――一体、どれ程の時間、私は眠っていたのだろう。長かった様であり、短かった様でもある。壁に掛けられた楕円の文字盤のない、アナログ電波時計を確認すると、丁度分針が真上の十二時の位置を指しており、ほんのすぐ後ろを時針が追いかけていた。
時刻は二十三時。約二時間もの間、私は眠っていた。
「どうしたんだよ、お前。麻雀の途中で寝るなんざ」
「済まないK……他の二人は?」
「少し前に寝室に入ったよ。ほら、手貸してやるから、寝るならお前もそこへ行って寝ろ」
Kの助けを借りて寝室まで辿り着くと、既に電脳と八連荘はベッドに横になっていた。私も空いたベッドに横になると、まだ眠りが足りなかったのか、すぐにまた意識を手放し、翌日の昼過ぎまで眠り続けたのだった。
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