それは毒めく口づけのように

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それは毒めく口づけのように

 そのとき、部屋の扉の外で、足音と、何かを置く音が聞こえた。  扉を開けてみると、そこには一冊の本があった。  この本は⋯⋯。  ぱらぱらとページをめくる。すぐにあの言葉に行き着く。 『悔いは過去に縛られている証だ。前に進む者は、悔いを食して明日のために生きる。』  そして書き込まれた文字に胸が熱くなる。 『こんなに好きになってごめん』  私の書き込んだ文字と一字一句違わない──。  結ばれることはないだろうけれど、なんだ、同じ気持ちじゃないか。  (うらら)はその本を抱きしめ、さも恋を握り込めるように泣いた。  やはり大好きな、愛してやまぬ作家だ。  わずか一行に身体が震えてしまう。  (いびつ)な恋だと笑わば笑え。  しかし麗の本心を文字とするなら、それは永遠に報われぬ恋でしかなかった。 おわり
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