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稽古が中盤にさしかかり、少し落ち着いてくると、シュンくんは何をやっているか気になってきました。道場の壁も見飽きていました。
とはいえ、泣き止んだことがバレると「やれ」と言われるかも知れません。
シュンくんはまだ泣いているふりをしながら、チラッと振り返って稽古の様子を盗み見ました。
「……」
白帯を締めた子供たちが、整列して一斉に動いていました。ダンスのようにも見えますが、ちょっと違うようです。
「空手の『型』というものらしいわよ」
「……!!」
ママの声にシュンくんは慌ててそっぽを向きました。
拒絶のオーラを放ちます。
そうやって安全を確保しながら、再び横目で稽古の様子を見てみました。
白帯というのは、空手を初めて最初に締める帯だそうです。つまり入門したての初心者です。
だからでしょうか。
シュンくんの目には、とても簡単な動きのように見えました。
これならボクにもできるかも?
そんな考えが頭をよぎりました。
そこに空手の先生がやってきました。
「やってみる?」
「!! ……嫌っ!」
声をかけられてビクンと体をはね上げると、シュンくんは反射的に声をあげました。ママの首に抱きついて拒絶オーラ全開です。
するとまた涙があふれてきました。
涙の理由はもうシュンくん自身にも分かりません。
とにかく涙が出てしまうのです。
こんな調子では、空手なんて無理に決まっています。
いくら頑張ったって無駄です。
それなのに……。
「入門手続きをお願いします」
ママは稽古が終わった帰り際に、道場の先生にそう言いました。
信じられません。
絶対無理なのに!
なぜママはシュンくんに空手をやらせたがるのでしょう?
ひど過ぎます!!
シュンくんは帰り道も泣きました。
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