発生、と、発端

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 暗い部屋のなかで、ただひとつ、黄ばんだデスクトップコンピュータの画面だけが、光っていた。  部屋の主は布団に横たわっていた。  ――動かない。  口の端から、しろく濁った涎が垂れ落ちている。ぷくぷく、と、微かに泡立つ様子がうかがえる。  ひん剝いた白目が微細に震え、異物を懸命に排出せんとして蠕動(ぜんどう)運動を行っていた。  ――その努力もあたわず、しんと静まり返る室内。  あらゆる自発的な活動が絶えてしまった部屋で、ただ、光っているディスプレイ。  持ち主への葬送歌を奏でるように、明滅を繰り返す。  ――徐々に激しくなる画面のちらつき。  確実に機械が発して良いものとは一線を画す奇音が、仲間入りを果たしたところで、――異変が起きた。  生を手放したはずの、彼の顔の皮膚が、ぼこり、と。  まるで鍋のなかで煮詰められ沸騰し始めたビーフシチューのように、のだ。
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