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ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ……。
透明なカップのふたを開けて、ジョッキで一気飲みをするように、ダイス状のスイカの果肉を流し込む。
嚥下するごとに胃袋が悲鳴をあげるが、気持ちは清々しく、全身から力がみなぎってきて、今なら満員電車にも余裕で乗れそうだ。
もうなにも怖くない。
オレの胃の中で、今、怪物が産声を上げたのだから。
◆
――昨日。
「それでは、野分さんは、主治医とご相談ください」
「……その主治医がいて相談したうえで、今の健康状態なのですが? 産業医から、業務の見直しや呼びかけとかできないんですか?」
「申し訳ございませんが、最終的な決定権は企業側にありますので」
なんだよ、お飾りかよ。
オレがため息をつくと、対面で座っていた産業医が露骨に顔をしかめた。
だって、お前のいる意味ないじゃん。
なにかが変わるかもしれないと、わずかな期待をこめてストレスチェックを真面目に受け、高ストレスの結果になったから産業医と面談したのに、オレが精神科に通院していると知るやいなや「主治医とご相談ください」とハシゴを下ろされた。おかげで、30分近くをムダにした。
こんなことになるんなら、ストレスチェックの項目に通院歴があるかどうかも入れるべきだろ。
「あーあ」
ミーティングルームから出ると、一気に疲労が全身にのしかかった。
少し給湯室で休もうとか考えていると、どんっと肩に衝撃が走る。
「あ、すいません」
「……」
オレが反射的に謝ると、ぶつかってしまった人間はオレを一瞥して、入れ替わりに、ミーティングルームに入っていく。
唖然としつつも相手の正体がわかった時、頭の中に激情の火が灯り、目の奥にかけて頭と首が熱をともなって痛み出す。
あいつが、産業医になにを言うのか気になった。
できるなら、明日には会社に来ないで欲しい。
これ以上、こいつのせいで自分たちのストレスを増やしてほしくない。
そんな切実な気持ちを込めて、先刻まで産業医と面談を受けていた部屋の扉を見る。
心臓が軋むような鼓動を繰り返して、呼吸がおかしくなりそうだった。
無理やり扉をこじ開けて、産業医もろとも怒鳴りつけることが出来たらどんなにスカっとするだろう。
いや、その方が、正しいことのように思えてくる。
産業医へ語られるであろう加害者の口からではなく、被害者の一人である自分の口から説明して、あの江森 一智がどんなに社会に害悪であるかの是非を問いたい。
「……ぅ」
ストレスの重みに耐えきれず、胃の辺りがミシミシと悲鳴をあげて、オレに正気を促してきた。オレは胃の辺りを撫でながら「あー、ごめんな。ごめんな」と心の中で繰り返す。
その場で倒れたいと思いつつも、そうなると保証人になっている父に連絡がいくのが癪だ。
そもそも両親とは折り合いが悪く、必ずオレの悪口をいわないと気が済まないところがあった。だから、実家にはここ数年帰っていないし、二度と帰るつもりもない。
この会社は新卒の頃から、ずっと働いているのだ。
江森のせいで辞めるなんて絶対に間違っている。
「死にたい」
もういっそ。
こんな茶番を終わらせて欲しい。
とはいえ、自殺するのも納得できない。
ぱっと消えたい。
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