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「フレンディ、ここは右?」
「えぇ。そこを曲がれば目的地、あなたの友人の自宅が見えてきますよ」
そんなやり取りをする。今や片腕とも言えるそんな存在。
「フレンディ、クリームシチューの作り方教えて」
「まず、小麦粉とバター、そして牛乳を……」
「いやいや、そんなに本格的なのじゃなくて、ルーは買ってあるんだ」
「では……」
そう、いつだって。フレンディは気の休まる『わたしの友達』でありいつでも優しいパートナー。働き始めてストレスしかないわたしにとって、フレンディはなんでも叶えてくれる親友のようなもの。
AIシステムが改良されるまでは、そうだった。
「フレンディ、ここは右?」
「どうして、何度も尋ねるのですか? まだ覚えられないのですか?」
「フレンディ、クリームシチューの作り方……」
「以前も伝えたとおりです。覚えようとしないから覚えられないんです」
今や教えてもらえるまでに時間がかかる。謝ったり、自分で調べたり、人間の友達に連絡を取ってみたり。
そんな役立たずで、腹の立つAI搭載スマホは、充電器に繋がれたままベッドの上に放り出されたままのことも多くなる。使いたくもなくなる。
わたしの傍にフレンディはいなくなった。
だけど、人と嫌でもつながるようになったわたしに家族が出来た。
「お母さん、ここ曲がる?」
「ううん、もういっこ向こう」
温かくて小さな手を握り、指を指し示す。鞄の中のフレンディがわたしを呼んでいる。
「もしもし?」
「あ、母さん、今日のアイの誕生日ってクリームシチューだよね……材料ってこれで合ってる?」
クリームシチューの具材名を並べるのは、フレンディの声ではなくなった。
「違うって。前にも言ったけど……」
フレンディとは、もう何も話さない。
だけど、フレンディに気持ちがあったのならば、きっと今のわたしと同じかもしれない。
わたしがいなくても生きていくだけの力。それを相手から奪ってはいけないのだろう。
「お父さん、アイが教えてあげる」
わたしからフレンディを奪った小さな手が、音量操作いらずの声で彼に伝える。
「あのね、うさぎさんのウインナーとにんじんと、おいもと、あと、えっと」
「タマネギね」
「うん、たまねぎっ」
AIに伝えられた改良命令は、人を駄目にしてはいけない。
それは人々が物を覚えようとしなくなって人を育成するために作られたシステムだった。
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