青の果てには

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青の果てには

 海辺には、季節の移ろいが静かに広がっていた。薄い雲が空一面を覆い、水平線の青色が冷たい空気に溶け込むように淡くにじんでいる。  サクラの隣で海を眺めるタケルの横顔には、都会で積み重ねた疲れが影を落としていた。帰省も束の間、明日にはまた遠くへ行ってしまう。 「いつでも帰ってきていいのよ」  サクラは寂しさを隠し、彼に笑顔を見せる。  彼は視線を一瞬だけこちらに向けると、無言のままマフラーを外し、サクラの首に巻いた。その布地に残る温もりが、じんと心に沁みる。行かないで――そう願うたび、震える息を必死に整えながら、言葉を喉の奥に押し戻した。 「じゃあな」  短く告げると、彼は振り返らずに歩き出した。風が吹き抜け、足元に細かい砂が舞い上がる。首元を握りしめながら、サクラは彼の背中を見送った。  それからいくつもの季節が過ぎた日、サクラは小さな手をつないで、果てのない波打ち際を歩いていた。 「その人はかえってきたの?」と子どもが尋ねる。 「ええ、それがね」  二人の視線の先には、手を振りながら向かってくる彼の姿。首元にはあのマフラーが、澄んだ風に揺れている。 「ほら、パパよ」とサクラが言うよりも早く、子どもは駆け出していった。
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