異世界もリアル世界もプレイヤーにとってはどっちも自分の世界だっていうこと

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異世界もリアル世界もプレイヤーにとってはどっちも自分の世界だっていうこと

 異世界に迷い込んだようなオンラインゲーム。少しずつ育て上げたキャラを使い、別世界を生きる。思い返せばそんな生活を10年ーーー。  現実世界には無い様々な出会いや冒険、命を懸ける戦いが待っている。   (さて、今日もこれからログインしようかな!)  わたしは、女の子のキャラ「えま」を使ってログインした。まずは…すでにインしているフレにチャットをする。 『こんばんは』    フレンドへの挨拶から始まる。ゲームだけどただのゲームじゃないのがオンライン。キャラの中身は人間で、みんな心がある。だから、恋愛にも発展したりするのだ。  また、現実世界と同じように働いてお金を稼いだり、物を売ったりして武器や装備を買ったりする。もう一つの自分が生きている世界なのである。  そんな世界で出会ったうちの一人が、男の子のキャラ「アレク」。  アレクとはフレンドの紹介で出会った。彼と出会ってからは、ほぼ毎日一緒に遊んで、戦って、ときにはチャットで語り合っていた。 『アレク、今日は何する?』 『そうだなー、とりあえず今日の日課を終わそうか』 『おっけー!一緒にやろ』  チャットの会話が続く。そして共に戦う、しばらくこんな毎日が続いていた。一緒に長くプレイすることで、キャラの中身が確実に異性だということがお互い認識されてくる。 『えま~』 『なーに?』 『えまの声が聞きたいなー』 『えー、まじで?』    わたしは、チャットで笑いながら答えた。わたしも、アレクの声が聞きたいとは思っていた。だが、それは現実の個人情報を伝えることになる。安易に教えてはいけないのはわかっていた。 『わたしだってアレクの声が聞きたいよ。でも…』 『そうだよなー、じゃ気が向いたらでいいよ』 『わかった』  そんな会話をすることもあれば、 『どこらへんに住んでるの?』  とか、やっぱり気になるところ。 『アレクはどこなの?』 『おれはー、東北だよ』 『そうなんだ。わたしは、関東』 『お、近いじゃん』 『うんうん。近い近い!』  そんな会話もしていた。ゲーム内では、暗黙の了解でわたしとアレクはすでに恋人同士になっていた。だから、やっぱり他の誰かと遊んでいれば互いにやきもちをやくこともあり、チャットでケンカも普通にしていた。 『ただのボス戦のお手伝いはわかるけど、他の女の子と二人で遊ばれるのは、まじでやだ』  わたしがちょっと怒ってチャットする。 『ごめん、どうしてもボスが倒せないから手伝ってきただけだって。たいした会話もしてないよ』 『ほんとに?なるべくもうしないで』 『わかった、今日はごめんね』  冷静になるとたかがゲームなのに、ってばかばかしく思えるが、プレイ中はやっぱりヒートアップしてしまう。  そんな毎日が数ヵ月、数年続くとある程度お互いのことがわかってくる。アレクは40代で既婚者、子どももいるちょっとスケベなおじさんで、わたしと同世代であるということ。仕事関係で、関東にはよく来ているということ。そして、ついに無料通信アプリで連絡先を交換してしまった。  ゲーム内で手紙にアプリのIDを書いて伝えた。そして、またチャットをする。 『なんかドキドキする』  わたしからチャットをした。 『まじで嬉しいけど、緊張するな…じゃあ、俺から電話するよ』 『うんうん』 (プルプルプル…プルプル…)  着信音がなった。 「もしもし…」  わたしが声を出して言った。 「もしもし…えまー?」 「あ、はぃ…えまでーす」 「うわ、すげー。びっくり」 「あは、恥ずかしいね」 「恥ずかしいな。でも、えまの声かわいい」 「やだー、やめて。かわいくないよー」  これが、アレクと現実世界で初めてした声と声の会話だった。チャットじゃない会話は、すごくドキドキした。ゲームにログインできないときは、無料通信アプリのメールでやり取りをしていた。ゲーム内はもちろん、現実でも恋人のような存在になっていった。  そんな日々を満喫していたわたしは、現実世界では真面目な保育士として子どもたちと戦い…ゲームの世界ではモンスターと命懸けの戦いを繰り広げている。    子どもたちとの戦いもかなりの戦闘力を必要とし、ゲームと同様に毎日の日課をクリアし自分のスキルを育て、レベルを上げていくのだ。  ゲームでラスボスといえば、何人かでパーティーを組み、装備を整え戦いに挑むのが一般的。  保育園でのラスボスレベルとなると、ソロでの戦いになることが多く、それは昼寝をしないで走り回っている子どもをおんぶで寝せる…。装備といえば、おんぶひも1つだ。なかなかの体力が必要な戦いになるのだ。  現実世界の戦闘が終わり体力を復活させ、今度はゲーム世界の戦闘に挑む日々。そして、育まれる人間関係はまだまだ計り知れない…。
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