自己暗示

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私は『鈴木裕太』、普通のサラリーマンである。 「ただいま」 疲れた声で玄関の扉を開けながら独り言のように言った。 妻は出迎えてくれないのか… 新婚なのに寂しいな、 そう思いながらリビングの机にスーパーで買ってきた今晩のおかずを置いて、お風呂場でシャワーを浴びている妻の元に向かった。 「ただいま」 妻はシャワーを浴びているからきっと聞こえないだろうと分かりつつも話しかけた。 「おかえりなさい」 シャワーの音で聞こえづらかったがしっかりと返答してくれた。 愛しの妻の声は聞けたのだが早く自分もこのベタベタした汚れをシャワーで流したいと思いながらリビングに戻った。 時計の針は夜22時をさしている 「…何だ思ったより早かったな」 もう少し遅い時間になるかと思った。 外でパトカーのサイレンが聞こえた。 特に気にする事も無く愛しい妻がお風呂から 上がるのをリビングのソファで横になりながら テレビを観ながら待つ事にした。 「おかえりなさい」 愛しい妻が下着姿で長いバスタオルで顔を覆うように髪を拭きながらリビングにきた。 「今日の仕事はどうだった、風邪大丈夫? 喉の調子朝から辛そうだったけど…」 キッチンでカップに牛乳を注ぎながら 愛しい妻が話しかけてくれた。 「辛かった、早く帰ってきて君に会いたかった」 ゆっくりと愛しい妻の背後にいき、抱擁しながら囁くように答えた。 「もう、何?」 少し照れくさそうに答える愛しい妻が 振り返ろうとしているのを感じて抱擁を辞めた。 「どうしたの?」 愛しい妻の瞳を見つめながら話しかけた。 「………あなた……………誰?」
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