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結婚したときは本当に嬉しくて、幸せで。
だから結婚式の夜、急遽仕事が入って出て行ってしまった時も。
一緒にお茶する時間が付き合っていた頃から減ってきても。
年単位で隣国の視察に出て家を空けるとバツが悪そうに話した際も。
「行ってらっしゃいませ。……お帰りをお待ちしていますわ」
そうできるだけ明るく答えた。
大丈夫、ベルナルド様はマメな方だ。「手紙を寄越す」と気遣って下さった。
大丈夫、「今度、埋め合わせをしよう」とも言ってくださった。
大丈夫、結婚しても笑顔は見せてくれなかったが、それでも沢山のキスをしてくれたから。
耐えられる。
大丈夫。
大丈夫。
片思いで彼の背中を追いかけていた時よりも関係はずっと親密で──私は彼の妻なのだから。
妻として屋敷をしっかり管理すれば、帰ってきたときに旦那様も喜んでくれる。
褒めてくれるかもしれないし、私の時間を作ってくれるかもしれない。
だから執事のジェフと侍女長のハンナ、屋敷のみんなに支えてもらってこなしてきた。
今度旦那様が帰ってきたら屋敷でのんびりと過ごせるようにしておきたい。
そして誰よりも最初に「お帰りなさい」と言おうと決めていたのだ。
なのに──。
卵の殻が破れるような亀裂音が聞こえてくる。
もし殻が破けたら何が生まれるのだろう。
ただこの卵は、あるいは種は芽生えさせてはいけないのではない。
そう、なんとなく思った。でも、もう自分では止められないだろう。
意識が浮かび上がる感覚に「ああ、全部夢なのね」とぼんやりしつつも安堵した。
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