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開業45年の伊香医院が新しい建物になって開業する日となった。
伊香医院に来る患者さんは具合が悪くて来院するので、おめでたくはない。
なので、盛大な新規オープンとかではなく、ひっそりと診察開始となったのだ。
(さて、赤字になると困るからちょっと本気をだしてやりますかね)と、ちょっとだけ多門は気合を入れた。
「先生、よろしくお願いします」
「うん、よろしくお願いします」
多門の診察室で看護師をやる田中さんと軽く挨拶をして、最初の患者に入ってもらった。
「先生、お願いします」
「はい、お任せください」
受付で記入してもらった問診表を見る多門。
(加藤さん65歳、頭痛ですか)
「加藤さん、ちょっと触診しますね」
「はい」
加藤さんの頭を触る多門。
医療魔法が使える多門は患者を触るだけでどこが悪いか、身体の内部がどのような状態なのか分かるのだ。
(これは脳腫瘍ができてるな。手術不可能な場所だ)
「加藤さん、手遅れです」
「は?」
「いえ、普通の神経痛です」
「手遅れって言いませんでした?」
「いいえ、これなら電気治療で治りますよ」
「電気治療ですか?」
「はい。医療用の電気治療器で弱い電流を流すだけなので痛くありません。が、しかし」
「しかし?」
「電気パッドを貼る場所、流す電気、流す時間は超精密にしないと駄目なんです」
「そうなのですか?」
「はい。しかし安心してください」
「はあ」
「私は電気治療のスペシャリストなのです、こればかり研究してますので」
「それは凄い」
「さあ、特別でスペシャルな電気治療を始めます」
「お願いします」
多門は加藤さんの身体へ適当に電気パッドを貼り付けた。
「これから15分間、弱い電気を流します」
「はい」
適当に軽めの電気を流す。
多門は加藤さんの頭を両手で触った。
「先生?」
「安心してください、電気治療の効果を確認しているだけです」
「はあ」
加藤さんの脳腫瘍にゆっくりと魔力を流す多門。
15分後、脳腫瘍は消滅した。
しかし、痛みは半分くらい感じるように調整している。
「頭痛はどうです?」
「痛みが半分くらいになった気がします」
「そうでしょうね」
「え?」
「いえ、それは良かった。あと電気治療を3回くらいで痛みは消えると思います」
「そうですか、先生の電気治療は凄いですね」
「まあ、長年の研究の成果ですよ。また近いうちに来てください。予約を忘れずに」
「明日でも良いんですか?」
「はい」
「それは助かります。今日はありがとうございました」
「お大事に。あ、ビタミン剤を処方しますので」
「はい」
「加藤さん、お大事に」
看護師の田中さんも加藤さんに声をかけた。
「ありがとうございました」
加藤さんは頭を下げて診察室から出ていった。
「先生、電気治療って使い方によって凄いんですね」
「いや……そうだね」
「え? 嫌ではないですけど」
「それは良かった」
「はあ」
「次の患者さん、よろしく」
「はい」
田中さんは次の患者さんを呼びに行った。
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