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「――!」
イベリナ妃は心底驚いて後退った。
護衛騎士のヘンリックが大慌てで駆け寄って来る。そして、イベリナ妃を抱きかかえるようにその身を庇うと、
「イベリナ妃、大丈夫ですか!? お怪我は――?」
と抑制のきかない大声で尋ねた。
イベリナ妃はしばらく口がきけなかったが、ようやく一呼吸つくと、
「ジャンデリア……。ジャスミンさんでしょうか?」
とかすれた声でヘンリックに聞いた。
「すぐに調べましょう」
とヘンリックが怒りの顔ですっくと立ちあがった。
そのとき、聞き覚えのある声がした。
「ジャスミンさんじゃないですよ」
イベリナ妃は声の方を振り返って、驚いた。
「え? ヴォルカー?」
「ちゃんと女神様との約束は守っていただけたかなと思って来てみたんですけどね、何やら揉めてるご様子」
ヴォルカーは腰に手を当てて、不満げな様子で立っていた。
約束と聞いてイベリナ妃は途端に申し訳なくなって、
「あ、大丈夫よ、約束は守ります! 国王陛下を酔い潰してもサインさせるから!」
とヴォルカーに宣言した。
ヴォルカーは怒ったまま、それでもイベリナ妃のセリフが可笑しかったので少しだけ笑った。
「ははは、そっちには卑しい手段も使うんだ。ところで国王陛下、ずいぶんとうちの女神様をバカにしてくれましたね。次はシャンデリアじゃすみませんよ」
「次はってことは、これやったのはヴォルカーなの!?」
イベリナ妃は悲鳴のような声を上げた。
「すみません、ちょっとあんまり国王陛下が分からずやなんでね」
とヴォルカーが頭を掻くと、
「だからって! こないだ式典用の神殿のシャンデリアも落ちたばっかりで、注文してもまだ作ってる最中だというのに! この神殿のシャンデリアも落しちゃうだなんて!」
とイベリナ妃は文句を言った。
「いや、そういう問題じゃないだろ! そいつは私の命を狙ったのだ! 極刑に処す!」
国王が憤慨して叫んだ。
しかし、ヴォルカーとイベリナ妃は同時に叫んだ。
「国王陛下の命なんて狙ってませんよ」
「ヴォルカーが陛下の命を狙うわけないじゃない!」
確かに、落ちたシャンデリアは国王の足元だったとはいえ少し離れており、国王の動線上にはなかった。
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