二人の幸せな時

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二人の幸せな時

 ランが家に来た最初の夜。  メイはその頃、舞台の練習がきついこともあって、食べようと思ってもなかなか沢山は食べられなかったし、夜もよく眠れなかった。  もうじき本番を迎えるので、周囲はメイの体調を心配していた。  ランはメイの家の冷蔵庫をメイがお風呂に入っている間にこっそりのぞいた。  ある程度の材料はあったので、魔法でササッと簡単な料理を作っておいた。  ママが作ったように見せかけるためにわざと冷ました。  メイはお風呂から出るとキッチンを見て驚いた。 メイ「わぁ、私の大好きなオムライス。メイへ。ってかいてある。  ママ、作っていってくれたんだ。うん。これなら食べられそう。」  メイはチンすると、テーブルに座って美味しそうに食べ始めた。  ランはほっとした。  食べて眠ればとりあえず何とかなるだろう。  後は眠る時にしっかりとそばにいてあげよう。  メイは食べ終わった食器をきちんと洗って、水切りに伏せて置いた。 メイ「さぁ、ラン。眠ろう。食べたらお腹いっぱいで眠くなったよ。  最近、夜中に目が覚めちゃうの。ラン、ベッドで一緒に眠ってね。」  ランは『もちろんだとも。』  と、言うように尻尾を振って、メイの後について部屋に入った。  メイのベッドの足元にはランのベッドと、入り口の壁際にはランのトイレもあった。  メイはベッドに登るとお布団の横をポンポンと叩いてランを呼んだ。 メイ「おいで。ここで一緒に寝ようよ。嫌かなぁ?」 ラン『嫌な物か。未来の俺の奥さん。一緒に寝ようなぁ。今日からはぐっすり眠らせてあげるよ。』  ベッドに横になったメイの隣にランが登るとベッドが沈んだ。 メイ「わぁ、ランの方が重いのかな。ふふっ。洗ってないのに毛がフワフワだねぇ。それにフカフカしてあったかい・・・」  メイはそう言いながらランの背中の毛を軽くキュッとつかんで、胸のあたりの毛に顔を埋めた。最後まで言い終わらないうちにメイは眠りについた。  ランの毛にはメイが安心する匂いがついている。人間なのでつがいとは言わないのだろうけれど、ランからするとつがいの相手になるための匂いだ。  人間に化けたときの体臭もメイの安定剤になる様に生まれついているので、今夜からのメイは寝不足には決してならないで済む。  ランもつがいと確認できるメイの髪の匂いを嗅いで、安心して眠りについた。  翌朝、起きてもママは帰っていなかった。   メイ『ママ。安心しすぎだよ。そりゃ、昨夜はなんだかとってもよく眠れたけど。朝ごはんはパンがあるから。ミルクとパンで良いか。』  メイはまずは顔を洗って、着替えて、ランにリードをつけた。 メイ「さ、ラン。初めてのお散歩だね。引っ張らないでね。転んじゃうから。  近くにドッグランがあるからそこに行ったら放してあげるからね。」  ランは全てわかった顔でおとなしくリードをつけてもらい、外に出られるので嬉しくてふさふさした尻尾をパタパタと振った。 メイ「鍵をかけて。よし。行こう!」  ランはメイの左横にぴったりついて歩き始めた。  この辺りの地図を早く覚えないといけないな。  歩きながらランは色々観察した。散歩している犬を良く見ながら、メイを襲いそうな犬が来るとランはメイと犬の間に入り、メイをそれ以上進めないようにした。  襲いそうな犬の飼い主は、自分の犬が小さい子を追いかけまわすのを知っていたので、ランの様子を見て、大急ぎでその場を立ち去った。 メイ「ラン。守ってくれたの?お利口さんね。ありがとうね。」  メイは小さな手でそっとランの頭を撫でてくれた。  ランは未来のつがいの手があまりに小さいので驚いたが、その可愛らしさと、優しい手触りで、自分のつがいはとても良い子なのだと改めて思った。  ドッグランに着くと、メイはランのリードを放してくれた。  夜のお散歩はママがいないと危ないし、メイは帰りが遅いから外で思い切り走れるのはこの時間だけだ。  メイが早起きしてくれたのだから、ランも力一杯楽しんだ。  30分ほどして、メイがランを呼んだ。 メイ「楽しかった?ランが遊んでいる間に台本をしっかり読めたよ。昨夜よく眠れたからだね。きっと今日は良いお稽古ができるよ。  さ、帰って朝ごはんにしよう。ランもおなか空いたでしょ?」 ラン『ワン!』    思わず元気よく吠えてしまい、恥かしくなるランなのだった。  家に帰るとまずはランの足を拭いて、ランのお水とご飯を用意してあげた。    メイはミルクをチンして、トーストしたパンを食べただけだ。  学校には舞台稽古の間は早退することをあらかじめ言ってあるので、学校を早退して、舞台の稽古へと向かう。  給食を食べていないはずなので、マネージャーの佐々木は軽めのお昼を用意してくれたのだが、メイは稽古への緊張があるのかそれすら食べきれない。    舞台稽古の時に舞台監督を見ると、あの日のママと監督が昼間行っていた情事を思い出した。監督が自分の事もそんな目で見ているのを知ってしまい、それでも主役をしっかりとやり切ろうという気持ちもあり、メイはグルグル考えて、とても苦しかったのだ。  元々細いメイなので、マネージャーの佐々木マイは心配していた。  まもなく本番なのに倒れてしまったら困ってしまう。 佐々木「ママ、今夜もいないんだったらご飯作りに行こうか?それとも、どこかで食べてから帰ろうか?」  と、聞いてくれた。 メイ「大丈夫です。簡単な物だったら自分で作れるし、ランが待っているから。」 佐々木「あぁ、新しく飼い始めた犬ね。ずいぶん大きいって聞いたけど、お世話は大丈夫なの?」 メイ「ランはとってもお利口だから大丈夫です。今朝だってお散歩の時に私を守ってくれたし。ランと一緒だったらよく眠れるし。」 佐々木「そうか。よかったね。でも、ご飯はちゃんと食べてね。あ、お昼に用意してたパン。持って帰って。」 メイ「ありがとうございます。佐々木さん。じゃ、また明日。」  メイが家に帰るとランが庭で迎えてくれた。  窓に明かりがついていなかったので、ママがまだ帰っていないのはすぐにわかった。  でも、キッチンのテーブルにはグラタンが乗っている。 メイ「あれ~?ママ一回帰ってきたのかな?」  メイは庭にいたランを呼んで足を拭いて家に入れると、自分がお風呂に入る前にランのお水とご飯を用意してからお風呂に入った。  その時、玄関の鍵が開く音がした。 舞台監督「お~い。メイはいるかな?」  メイのママは舞台監督に元にいたのではなく、別のもっと若い男の元に行っているらしい。  監督は家にママがいなかったらメイを襲ってやろうと思い、この家に来たのだった。勿論、合鍵はママが渡してあった。  主役のメイに本番前にそんなことをすればメイの心が壊れて舞台がダメになるかもしれないのに、アミーは子供の負担にならないように必ず主役を2名選ぶことになっているし、控えの子どももいるので、何とかなると思っている様子だ。  舞台など、ランには関係なく、メイ自身が危ないと感じたので、ランはいきなり魔犬属の姿になって、監督に向かって一歩歩み寄った。  メイには気付かれないよう、吠えずに唸り声をあげた。  元々犬が苦手なのに、体高5mもあるふさふさとした毛で青い目をした犬のような生き物が唸りながら近づいてきたので、舞台監督は目を見開いて、何も言わずに後ろを向いて玄関から出てい行った。  ランは小さな方の犬の姿に戻って、魔法で玄関の鍵を閉めた。  メイがお風呂から出てきて、グラタンをチンして食べ始めた。  ランが作ってくれた食べ物は食の細いメイでもきちんと食べられるように身体との相性を良くしてつくられている。今日も、メイは夕食を全部食べられた。 メイ「あぁ、パンももらっていたのに。もうお腹がいっぱいだわ。  これ、明日の朝ごはんでいっか。」  翌朝にはさすがにママも帰ってきていて、メイがランのお散歩から帰ると昨日貰ったパンと一緒にサラダやスープが用意された朝食が待っていた。 メイ「ママ。帰ってたんだ。お帰り。」 ママ「メイ。昨日舞台監督が来なかった?変なメールが来てたんだけど、何もなかった?」  ママは舞台監督から、『俺の元に来ないんだったらメイで楽しむからな。』という脅しのメールを受け取っていたのだ。 メイ「監督?来なかったよ。」 ママ「だったらいいのよ。あのね、今日業者さんが来て、家の鍵を変えるから。新しい鍵は郵便ポストに入れてもらうから、そっちで家に入ってね。」  メイの家の郵便ポストは鍵がついているので、番号を知っているメイとママにしか開けられないのだ。  その日はママは舞台監督と稽古の後に会うために出かけ、メイが帰宅したときにはママが作ったカレーがお鍋ごと冷蔵庫に入っていた。  その量を見れば、ママがしばらく帰らないつもりなのは何となく感じ取れた。  火は火傷してはいけないので使ってはいけないと言われていたので、食べる分だけをお皿に取ってチンして食べた。  ご飯もチンするごはんがテーブルに積んであったのでそれを食べた。  でも、チンするご飯は量が多くて、食べきれない事が多かった。  ランは、尻尾を振って、ご飯をほしそうにするので、メイはなにもかかっていない白いご飯だから良いかな?と思い、残ったご飯はランにあげた。  ママは舞台監督から、化け物を飼っているのか?と聞かれたので、やはり家まで来ていたことに驚き、メイに何もなかったのはきっとランが脅してくれたんだな。と察した。  まさか、ランが体高5mの姿になって監督を驚かせたとは思わないので、化け物とは失礼な。ランは大きいけどおとなしいのに。この人、本当に犬が苦手なんだわ。と思いはした。  舞台本番の日までにはさすがにママも帰ってきて、メイのお世話をしてくれたし、メイは毎晩ランと一緒に眠ったことで睡眠不足が解消され、食欲もだんだん戻って、体重も目には見えない位だけれど少し増えた。  そのおかげで元気よく舞台の本番をつとめることができた。  舞台は好評で、ダブルキャストのもう一人の主役は結構体格の良い子だったので、ついつい小さくて元気の良いメイに人気が集まり、アミーの関係者からは来年もぜひお願いしたいと頼まれた。  メイのママは舞台監督のいない所で、 ママ「別の舞台監督でしたら来年もお願いしたいと思います。もちろんオーディションを受けさせます。  でも、そうでないのでしたら、メイはオーディションは受けないでしょう。」  と、他のスタッフに告げた。  スタッフは何となく事情を察した。  舞台監督の手癖の悪さは有名だったし、メイのママと寝ているのもみんな知っていたので、もしやあんな小さな女の子にまで興味を持つようでは今後のアミーの舞台は任せられないという話になり、翌年からは別の舞台監督に変わった。  そこでメイは毎年オーディションを受け、徐々に成長して身長も伸びていったけれど、5年生までの3年間アミーをやり切った。  その後はテレビドラマからも声がかかり続け、芸能事務所の中でも一番の売れっ子になった。  ランは長くないかもと言われてからも、特に年を取る様子もなく、大きすぎるのでメイが洗ってあげることができないし、猫みたいに毛繕いができるわけでもないのにいつもフワフワでふさふさの綺麗な毛並みをしていた。  全体は真っ白で、先端に青味がかったような色のついた房が所々にある。  毛は長毛で多いのに、絡まっている事もなく、いつも綺麗に整えられていた。  ランはメイが家にいない時間は大抵庭にいた。犬用出入り口はランが大きいので人間も入れてしまう為、作らなかった。  ランを毎日庭に放している間に、宅配便の人や郵便配達の人は皆、庭の外から手を出して、ランと遊んでから帰るようになった。  九重という本名で子役をしているメイの事をかぎつけて家の周囲に来る人間がいれば容赦なく吠え、ご近所さんを呼んだ。  ご近所に泥棒が入りそうなときにも吠えて知らせていたので、ランが吠える時には何か理由があるのだと、ご近所では有名になり、みんなに可愛がられた。  それは、ランの魔法にみんなの目を慣れさせるためでもあった。  メイももうすぐ中学3年生になる。  婚姻を結ぶのは18歳以上と人間界では決まっているが、それまでにランの人間に化けたときの姿にも慣れておいてほしかった。  近所の人や配達の人、郵便局の人達にはランが家の中で人間の姿に化けていても犬に見えるように長い時間をかけて魔法をかけていたのだ。    メイが中学3年生になって、15歳のお誕生日を迎えた日。  マネージャーの佐々木さんとママが、一緒にお祝いをしてくれた。 ママ「ハッピーバースデイ。メイ。」 佐々木「おめでとう。これからは大人の役も少しずつ増えてくるわね。」  そして、その誕生会の最中にママから衝撃的な発表があった。 ママ「メイ。佐々木さん。私ね、メイが最初にアミーをやった時の舞台監督と結婚することになったの。  でも、彼はまだメイの事もあきらめていないから一緒には暮らさない方がいいと思う。  彼は犬が、特にランの事は怖いみたいだからこの家に住んでいる限りはメイの身は安全だわ。  メイももう15歳になるし、自分の事は自分でできるわよね。  お仕事の事は、佐々木さん、よろしくお願いします。  勿論、未成年で一人暮らしは良くないと知っているので、名義上はメイの父親と暮らしていることにしておくわ。  一応了承は得ているけど、彼も別の家庭を持っているので一緒には住まないけどね。  どうかな?施設とかに行くよりはメイも慣れているこの家の方が良いでしょう?」 佐々木「そ・・そんな無責任な。あと3年我慢できないんですか?」 ママ「あの舞台監督がねぇ。我慢できないんですって。  メイの事を狙っていなければ私もあと3年はここで一緒に住みたいのはやまやまなんだけど。  私も30歳過ぎたし、彼とは色々相性がいいのよ。  で、向こうが去年離婚したって言うので、結婚することにしたの。  あまり待たせると、この家以外の場所でメイが襲われちゃうかもでしょう?   最近は離れた場所での仕事も多いんですもの。心配で。  さすがに私と結婚すれば、娘には手を出さないでしょう。  彼にしたってゴシップは怖いはずだもの。」 メイ「ママ、私の事を考えてくれてありがとうね。  一人で平気。ううん。ランがいるもの。一人じゃないし。  この頃は自分でちゃんとご飯作れるようになってきたし。ね。  佐々木さん。この所、私、少し体重も増えたし、背も伸びたでしょう?」 佐々木「まぁ、確かに。150cmまで伸びてよかったわ。でも、生理はまだよね?  でも、自分で生活の管理ができるのなら、私もできるだけ見に来るし。  この話は3人の秘密ってことでね。」 メイ「OK。ママお幸せにね。」  パーティーの片付けが終ると、佐々木もママも自分の帰るべき場所へ帰って行った。  ソファーに座りながらメイはランに話しかけた。 メイ「ラン。ママは勿論今までもあんまりいなかったけど、今日から本当に二人きりになったんだよ。  寂しくなんてないよ。ランがいれば私は大丈夫。」  ランはメイの足元にすり寄ると、メイの膝に頭を乗せて、上目遣いでメイを見た。 ラン『驚かないでね。メイ。僕の別の姿を見せるから。』  突然メイの頭の中にランの声がした。それは昔聞いた時よりも男らしく、低い声だった。  そして、突然そのままの格好でランの姿が人間の男の子になった。  座っているメイの膝には白い髪色にところどころ青味がかった房のある髪をした頭が乗っている。  長い筋肉質の手足を畳んで床に座っている何も身につけていない同世代の男子がメイの膝に頭を乗せてメイを見上げているのだ。   メイ「え??え?あの、ラン・・・だよね。」 ラン「そうだよ。あ~、長かったなぁ。ようやくこの姿で会えたね。」  そう声をかけてきたランは青い目でメイを見つめている。  芸能界に長くいて、イケメンは嫌という程見ているのに、その、どのジャンルにも当てはまらないようなイケメン男子がそこにはいた。  精悍な目つき。高い鼻筋。薄すぎない唇。引き締まった身体。  ランはメイの隣に座る為に立ち上がった。  手足はメイの思っているよりも長く、身長はものすごく高い。  クラスのどの男子よりも。180cm位?  そして、白い眉毛と白いまつ毛の下の青い目で、メイを見つめながらメイの隣に腰掛けて、そのままなんとも自然に、小さくて赤く膨らんだメイの唇にキスをした。  メイはランの顔が近づいてきたので自然に目を瞑った。  小さなメイの頭を後ろから支え、背中を少し自分の方へ持ち上げるようにして、ランは長い長いキスをした。  メイはお芝居ではまだキスシーンはNGだったので本当のファーストキッスだった。  嫌だという気持ちはまったくわかずに、そのままランに身体を預けた。が、すぐにランの胸を軽く押した。 メイ「息・・・くるし・・・」 ラン「あ、ごめんよ。つい嬉しくって。」 メイ「あの・・あの・・ずっとランだったのよね。」 ラン「あぁ、そうだよ。俺は魔犬属の王子なんだ。  ずっと一緒にいたラン。だよ。  大分昔からある魔属だから、簡単な魔法だったら使えるんだ。  小さいときにご飯も作ってあげたことあるよ。  それに、今は犬と人間に化けられる。  これまでの犬の姿も化けた姿だよ。  メイと結ばれるために人間界来て、ちゃんとメイと巡り合えた。  あの日からずっとメイと一緒に寝ていたでしょう?」  メイは真っ赤になり、背中を抱かれたまま胸の前で小さな手をぎゅっと握りしめた。 メイ「あの、私の着替え・・とか、寝ている所・・・とか。一緒にお風呂に入ったり・・もしたよね。」 ラン「もちろん、全部見ていたよ。恥ずかしがらなくて大丈夫さ。僕らはつがいになるんだ。」 メイ「つがい?」 ラン「あっと、人間だと、婚姻関係になるんだ。ん~、結婚関係?  それはまだ先の話だけどね。  ママがいなくても大丈夫だよ。これからは人間に化けて地方の仕事にもついて行かれる。大丈夫。昼間は犬でいるよ。  あぁ、でも、まずは本当の大きさの僕も見てほしいな。」  ランはそういうと、今度は巨大な犬・・いや、なんだろう、童話の世界にでも出てくるような大きさのオオカミの様な姿になった。  リビングが狭く見えるほどの大きさで、でもメイは不思議なことにちっとも怖いと思わなかった。  これまで一緒にいた犬のランを大きくしたような、とても立派な姿だった。 メイ「すごい。大きいのね。」    メイは思わずその大きな魔犬属の太い脚にギュッと抱き着いた。  やっぱり足もフワフワのフカフカだ。 ラン「乗ってもいいぞ。首のあたりの毛だったら、メイの力だったら少し位引っ張られても大丈夫だ。あぁ、でもそもそもメイ登れないよな。」  ランはシュッと軽く音をさせ、再び人間の少年の姿になると、メイをもう一度抱きしめた。 ラン「あぁ、どれだけ我慢したかしれない。メイをこんな風に抱きしめたかった。ねぇ、も一度キスしてもいい?」  メイが答えるより先に、今度は立ったまま、ランはメイを抱きしめ、腰をかがめてメイの唇を奪った。  さっきよりも濃厚に、きつく結ばれたメイの柔らかな唇の間をそっとランは舌でこじ開けて侵入し、メイの舌に絡めてきた。  メイのお腹の辺りになにか硬いものが当たったが、まだメイにはそれが何なのかよくわからなかった。  メイはきゅっと目をつぶっていたが、その舌遣いに何かフワフワして、お尻がキュンとして膝がカクンとなってしまった。 ラン「あ・・ごめん。我慢できなくて。」  メイに謝るとメイは真っ赤になって今にも泣きそうだった。 ラン「わ・・わぁ、本当にごめんよ。」 メイ「ううん。大丈夫・・自分の身体に驚いただけ。フワフワしちゃった。  こんな感じ、初めて。」  目をとろんとさせて、頬を赤く染め、ランに38kgしかない体重を預けているメイを見ていると、ランはもう衝動を抑えきれなくなりそうだった。 ラン「あぁ、もう、なんでそんなにかわいいんだ。だめだめだめ。18歳までは我慢。とにかくシャワーだシャワー。」  ランはメイをそっとソファに持たせかけると、引き締まったお尻を見せて、大急ぎで水のシャワーを浴びて、冷静になりに行った。  メイは色々なことに驚いていたけれど、ランと「つがい」になるのだったら、大人になるのも全然嫌じゃないな。と思った。  これまでは、奔放なママの事を考えると、大人になるのも少し考えてしまっていたから。  そんな衝撃的な感触が身体にあったからだろうか、その時、メイは初潮を迎えた。  初めて足の間から何かが流れてくる感覚に気づき、『あ・・もしかして・・』と思ってハッとしてソファから立つと、足の間にツツッと暖かいものが流れた。  見ると血が一筋流れてきていた。 メイ「あ・・」  大急ぎでトイレに行って、流れた血を拭いて、いつ始まってもいいように用意してあった生理パッドをあてた。  部屋に行って下着を変えているといつもの調子でランが入ってきた。 メイ「きゃ~、今はだめぇ・・」 ラン「メイ、血の匂いがした。でも怪我の血の匂いじゃない。もしかして初潮が来たの?おめでとう。」  メイは本当だったらありえないシチュエーションなのに、小学校3年生からの自分を全部見られていたのだと思えば、メイに起きたことはランが全て知っているのは当たり前なのだという気持ちにもなった。 メイ「あの・・あの・・ありがとう。  えっと、ちょっと佐々木さんに電話を。」 ラン「どうした?お腹痛い?頭痛い?」 メイ「うん・・と、お風呂に入っていいか聞きたくて。」 ラン「大丈夫だよ。よく足の間を流してから入れば。お湯はメイしか入らないから清潔だろう?そんなに気にする事じゃない。これから生理とは毎月付き合うんだから。」 メイ「そう・・なんだ。ランは何でそんなこと知ってるの?人間の、女の人の身体の事・・」 ラン「魔犬属だっていったでしょう?何百年も昔から歴史のある種族なんだ。人間の事だったら俺は生まれたときから何でも知ってる。  俺は人間に化けられるから、同じ年の人間のメイと生まれたときから結ばれる運命だったんだ。人間の事はメイが困らないようになんでも知っていた。  メイの事なら何でも知りたかったから、人間になっても驚かないように犬の姿でずっと一緒にいたんだ。あの頃のメイは夜も眠れなかったし食事もちゃんととれなかったから心配したよ。  俺が来てから眠れるようになったでしょう?」 メイ「うん。ランの胸の毛の臭いをかぐと安心して眠れるのよ。不思議ね。」 ラン「不思議じゃないさ。俺が産まれたときからそういう運命で、身体もそんなふうにできているんだ。メイも同じ様に運命の中で産まれてきているんだ。俺はメイの嫌なことは絶対にしないし、何があってもメイの味方だよ。  俺だって、メイの匂いを嗅ぐと幸せだし、よく眠れるのは一緒だよ。  まぁさ、人間のメスは色々恥かしがるけど、俺の前では不要だから。鼻もきくから何かあってもすぐにばれちゃうし。逆に隠されるとこっちも恥ずかしい。  とにかく、こういう時は、お赤飯炊くんだっけ?」 メイ「いいよぉ。でも佐々木さんにはどっちにしても報告しないとね。マネージャーはタレントの事はちゃんと把握しないといけないんだから。」  メイはそういうと、佐々木に『初潮が来た。』とニャインで連絡した。   ラン「さぁ、今日からはこの姿で一緒に眠ってもいい?」 メイ「え?さすがにそれは・・・」 ラン「大丈夫だよ。絶対に俺からは触らないようにするから。」  メイはしばらく考えたけれど、「つがい」の意味を考えると、 メイ「やっぱり・・寝る時はしばらくは犬のランでいて。  あと、あと、さっきからすごく気になっていたんだけど人間でいる時はお洋服を着てほしいよぉ。」 ラン「あ、ごめん。見慣れない物がぶらぶらしてたね。  とりあえず、明日何か買ってきてよ。メイが買うんだからユニセックスなもので、部屋着にしたいとか言って、大きめのサイズのもの。  今日は、バスタオルを撒いとくよ。  寝る時は犬でね。  了解だよ~。でも寝るまではこのまま人語でしゃべっててもいい?  本当に我慢してたんだから。」 メイ「もちろん。ふふっ。これでママがいなくてもちっとも寂しくなくなったね。犬のランといる時もちっとも寂しくなかったけどね。やっぱりあのフワフワのモフモフも捨てがたいから。」 ラン「ちぇっ、人間の15歳はまだ子供だなぁ~。まぁメイは今日ようやく大人の仲間入りしたんだからしょうがないか。かわいいから全て許す。」  二人は楽しそうに笑って、夜遅くまでお喋りした。  そして、ランは元通りの犬の姿になって、メイの横で一緒に眠った。  メイは満足そうにランの胸のあたりの毛に顔を埋めて背中の毛をきゅっと掴んで眠りについた。    ランは・・しばらくの間年齢的にも死ぬ思いでやせ我慢大会をする日々が続く。  ランは人間の姿になったら、昼間自分でジョギングするからもう散歩はしなくていいし、トイレの世話もこれまでも結構恥かしかったから、自分でするからトイレは片付けてもいいよ。と言った。  でも、メイは佐々木さんや誰かが来たときに犬用トイレがないと不自然だからリビングのは出したままにしておきましょう。と言った。  そんな話をしていたら、朝から訪問者があった。ドアフォンを見ると佐々木だった。ランは急いで犬になった。 佐々木「メイちゃん、おめでとう。大人の仲間入りだね。お誕生日に初潮が来るなんて。驚いたでしょう?大丈夫?身体は辛くない?」  嬉しそうにニコニコとお赤飯を炊いて持ってきてくれたのだった。 メイ「ありがとう。佐々木さん。身体は大丈夫。そんなに量も出てないし。」 佐々木「そうねぇ。最初は2日くらいで終わっちゃうかもね。それに不規則なこともあるし。でも、半年たったころに不規則だったら教えてね。一回婦人科で診てもらった方がいいこともあるから。  それから、ママには話してないわ。あの舞台監督に伝わったら面倒なことになりそうだし。」 メイ「いろいろお気遣いいただいて、ありがとう。今日はオフですよね。」 佐々木「えぇ。あ、それで、メイちゃん、高校は本当にいかないの?」 メイ「う~ん。悩み中です。これまでもあんまり学校には行かれてないし。」 佐々木「行くつもりだったら大学までだって行っていいのよ。メイちゃんはうちの事務所のトップなんだから仕事は調整できるからね。  若いときにしかできない事ってあるんだから、よく考えて、ね。」 メイ「はい。よく考えます。」  佐々木とメイはお赤飯を。ランは朝食を食べた体にして、水だけ飲んでいた。  一度人間に変身したので、もう、ドッグフードは沢山だと昨夜言っていたのだ。  佐々木が帰ってから、ランは初めてお赤飯を食べた。 ラン「美味~い。白い米も美味しいけど、これはモチッとしてるね。」 メイ「ふふ。じゃぁ、ちょっとお買い物行ってくるね。」 ラン「あぁ、待って。俺、一緒に行く。服はとりあえずはその辺の安い服屋ので良いからさ。  メイが困らない程度に身体を隠せる服ね。  で、そのあとは服着た俺が、自分で人間に必要な服を買いに行く。  メイが男物買ったらすぐに週刊誌とかで問題になっちゃうもんなぁ。」 メイ「ふふふ。じゃ、初めてのお買い物に一緒に行きましょう。ランはお店の中には入れないよ?」 ラン「メイが服を見れば、俺の頭に浮かぶよ。俺が時々メイの頭に話しかけてたでしょう?メイからもおれに話しかけられるはずなんだ。  練習して?そうしたら危ない時にはすぐに駆け付けるから。」 メイ「うん。頭の中にランの声がした。そうか。私の方からも話せるんだ。  練習する。」  メイは素直に頷くと、家の近くのチェーン店の安い洋服店に入り、ランの身体のサイズを思い出して、メイがきたらダボダボになるであろうサイズの服を選んだ。  男性の下着は面が割れているメイには買えないのでとりあえず、上下の部屋着にした。あと、ベランダ用にも見える大きめのサンダルも。  その時ランに話しかけてみた。服を良く見てから。 メイ『ねぇ、これ見える?これでいい?』  ランからは何も言って来ない。 メイ『伝わらないかぁ。』  メイは外に繋いでいたランの所まで、会計を済ませて急いで戻った。  ランは尻尾をちぎれるように降って、メイを迎えると、急いで家に帰った。  家に帰るとすぐにランは人間の姿に変身した。 メイ「あ。。カーテン閉めないと。外から見られちゃう。」 ラン「大丈夫。この辺の人は人間に化けてても俺の事、犬に見えてるから。  そういう風にこれまでの6年間で魔法をかけてきたんだ。  いちいち昼間からカーテン引いていたら怪しいでしょう?」 メイ「うん。まぁ、どっちにしてもレースのカーテンは引いてあるから大丈夫よね。」  ランはメイが買ってきてくれた服を着ると、メイからお金を受け取って、今度は別のチェーン店の洋服屋に入り、自分でサイズ大きめの下着を何枚かとランニング用のウェアと、ついでに靴屋に寄って、ランニングシューズと普段履きのスリッポンを買ってきた。 メイ「わぁ、本当に買ってきたね。ねぇ人間のお金の使い方って・・・」 ラン「だから、人間の事は大抵知ってる。それにメイに迷惑がかかるようなこともしない。メイを心配させるためにいるんじゃないんだよ。  メイを守るためにいるんだから自分の面倒は自分で見られるし、メイの面倒も俺がみるんだ。  ところで、最初の服を買った時、何か俺に伝えようとしてくれた?」 メイ「あぁ・・一応つよくおもってみたんだけど、ランからお返事なかったからうまくいかなかったんだなと思った。」 ラン「あぁ、何となくメイが俺になにか伝えようとしている事は分かったけど、何かまでは分からなかったんだ。」 メイ「そっかぁ。まだまだ練習が必要だね。」  その日から、人間のランが九重家から出るのはまずいので、出かける時にはメイのバッグにスポーツウェアとシューズを入れて、メイの仕事場までランが一緒に行くことになった。  メイが、ランのおトイレに。と言って仕事を抜けた後はメイは近くのペットショップにランを預けてきました。と言い、ランは人間に化けて、トレーニングをして、買い物をして、メイの食事を作って、家でシャワーを浴びてから犬になって、いつの間にかメイの仕事場に戻る。という生活を送った。  メイはランの勧めもあって、高校へ進学することにした。  仕事量はぐっと減ったが、事務所に行ってお手伝いをしたり、何だか小さいときに歌った歌がずっと売れていて、その印税が入ってくるので、事務所からはいつも生活に余裕を持てるだけのお給料をもらいながら、小さな仕事をこなした。  夏休みなどは舞台のお仕事を貰ったりして進学しながらも仕事も充実して過ごすことができた。  ランとは中学生の間はずっと犬の姿で寝てもらっていたけれど、高校から帰って人間のランとの楽しい時間を過ごすうちにメイは人間のランと一緒に寝てもいいかな。と思う様になってきていた。  高校生になってからも、身長は少しずつ伸びて、155cmになり、体重は結構増えて43kgになった。  だんだん女性の身体に近づいてくるにつれて、ランのキスの時に、身体がツキンと感じることが多くなってきていた。  ランは中学の時に言ったことを守って、キス以外は求めてこなかったのだが、キスの内容はどんどん激しくなっていった。                
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