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出会い
ラン「メイ、ほら。起きて。また朝ごはんを食べそびれるよ。」
私は優しく顔を舐められて目を覚ます。
メイ「ラン。人間に変身している時には舐めないでよぉ!」
ランは私が小学校の頃から一緒に過ごしてくれた。犬・・だったはず。
*************
メイは毒親とまでは言えないが、ちょっと幼くて、普通の事が普通に考えられないママに育てられた。
ただ、ママ本人は悪いことをしているなんて思っていなかったし、メイを護ってもくれていた。
メイもママの事が好きだった。
ママはメイの可愛らしい容姿を使い、赤ちゃんの時からモデルの仕事をとってきて、メイは物心ついた時には大人の中で仕事をしているようになっていた。
赤ちゃんモデルから子役へ。幼稚園、小学校。
運よく子役時代は沢山の役をもらえた。
セリフ覚えが完璧だったからだった。
セリフを覚える間はママがつきっきりで暗記させられた。
覚えるまではご飯ももらえないし、さぼっていると言われて、トイレだってなかなか行かせてもらえなかった。
小学校1年生の時には本当にトイレに行きたかったのに、行かせてもらえなくて、小学生にもなってその場でお漏らしをして、ものすごく恥ずかしい思いまでさせられた。
当然、叱られたのはメイで、自分で掃除をさせられた。
さすがに、それ以降はトイレに行きたいときには頻繁でない限りはちゃんと行かせてもらえるようになった。
パパは、メイが幼稚園の頃に、メイにつきっきりで家に帰らないママに嫌気がさして、でていってしまった。
だんだん大きくなるにつれて、メイは自分の稼いだお金がどこに行ってしまうのだろうと疑問に思う様になった。
ママはメイにつきっきりなので仕事はしていないと言っていた。
メイが沢山お仕事をしても、子どものメイが稼ぐお金はあまり高くないからと言われ、ずっと安いアパートに住んでいた。
役が決まった時にだけ新しいお洋服を買ってもらえた。小学校は近くの公立だったので、お仕事で休むのにあまりいい顔をされなかった。
太ると役が来なくなる。子役は小さい方が可愛いんだから。と言う理由でお腹いっぱい食べさせてもらったことはない。
メイはいつでも周囲の同級生と比べるとチビでガリガリだった。
メイは小学校3年生で、舞台、アミーの主役に決まった。
歌は好きだったし、テレビのお芝居よりも沢山動くことができて面白かった。
ただ、あまり食べていなくて体力がないために体力のいる舞台のお稽古の途中で倒れたことがあり、ママはきちんと体調管理をするように監督たちから色々と言われた様子だった。
その頃から急にママはおしゃれをするようになった。
二人は安いアパートから引っ越して一戸建てに住むようになった。
大きな舞台のお仕事なので、ママはメイを芸能事務所に入れた。
ママががメイを見なくても、芸能事務所のマネージャーがいろいろと気を使ってくれて、練習の時にきちんと食べさせてもらったので倒れるようなことはなくなった。
ある日、舞台稽古から少し早めに帰った日、ママの寝室から聞いた事の無いような声が聞こえた。
メイ「ママ?いるの?ただいま。」
メイは小さな声で挨拶をして家に入ると、何か声のしていたママの寝室を開けた。
ベッドの上で、裸のママの上に裸の舞台監督が重なって動いている真っ最中だった。
メイは一瞬驚いたが、ママと舞台監督が何をしていたのかはすぐにわかった。
あまりの事に言葉もなく慌てて、静かにドアを閉めて自室に行った。
『まさか、私の主役はママが舞台監督と寝たから貰えたの?』
もしそうだとしたら酷い話だ。不正で主役を貰うなんて。
二人はメイが見てしまったことには気付かなかったようだ。
その後もママの嬌声やベッドがぎしぎしと動く音がママの寝室の隣の、メイの自室には大きく聞こえた。
いつもメイが帰る時間が近づいていたからだろう、二人で服を着ながらボソボソと話す声が聞こえた。
監督「なぁ、メイとはいつさせてくれるんだ?」
ママ「流石にまだ早いわよ。あの子、身体も小さいし。何年か続けてアミーの主役をしている間にはお相手できるようになるわよ。
私ではご不満?」
監督「まさか。メイみたいな可愛い女の子も好きだけど、大人の女も好きだよ。君はまだ十分に若いしね。
俺と結婚しようなんて言い出さなければいつまでもお付き合いしたいよ。
君みたいに身体の相性の良い女は久し振りだな。」
ママ「ふふ。それでは今年、メイが舞台で主役をとれたことには感謝しないとね。
そうでなくては、あなたとこういう関係にもならなかったでしょうから。」
監督「さ、メイが帰ってくる前に家を出なくっちゃな。」
メイは大急ぎで玄関から自分の靴を取って自分の部屋に入れた。
どうやら今回の主役は自分で勝ち取った役だったらしい。とほっとした。
監督が帰った後、メイはもう一度玄関まで行って『ただいま。』と少し大きな声で挨拶をして今帰ってきたふりをした。
メイ「ママ?ただいま。どこにいるの?」
母「寝室よ。ちょっとまって、お昼寝しちゃってた。」
『嘘つき・・・』
メイは心の中で涙を流した。
でも、ママだってまだ若い。自分だって楽しみたいんだ。
ママが楽しんで外で遊ぶためにだったら、もしかしたらメイのお願いを聞いてくれるかもしれない。
だって、それを理由に遊びに出る言い訳ができるものね。
メイはママにお願いしてみることにした。
メイ「ねぇ、ママ。お家引っ越したんだからさ、前からお願いしていた犬を飼いたいな。」
母「え?だって、世話が大変よ。あなた、劇場もあるのに。」
メイ「自分でお世話するよ。朝早く起きてお散歩も行くし。
小型犬だったらお散歩は家の中でもいいって聞いたことあるもの。
学校ではあんまりお友達出来ないし。犬がいればママがお外に行っている間も安心でしょう?」
ママはしばらく考えていた。
『メイももう小学校の中学年。来年は4年生になるし。
今日の様に家で監督と寝ているのもまずいかもしれないわ。
そういえば、あの監督、犬が苦手よね。
メイに手を出させないためにも、もう、あまり家に出入りさせない方が良いかもしれないわ。
この家もメイがこれまで稼いだお金で買ったんだし。
メイは今までスレンダーで育ったし、食べる物だって、メイがこれからは自分で考えればいいわよね。
そもそも、私がもう余計なこと言わなくても、今回の舞台の時に芸能事務所にも入れたことだし。マネージャーもついているわ。
私だって、まだ遊びたいわ。28歳なんだもの。
私は外で監督と会えばいいわよね。』
メイの母親は18歳でメイを産んで、自分の遊ぶ金欲しさにメイを赤ちゃんモデルにした経緯があった。
メイには才能があったみたいで面白い様に稼いでくれたが、子役はできる期間も短いだろうと考え、ママはメイが稼いだお金は皆貯金していたのだ。
その間は節約して生活していた為、いつも貧乏だったという訳だ。
アミーの主役が決まったので、これで今後も何らかの仕事は入ってくるだろうと、ようやく芸能事務所にメイを入れて、溜めていたお金を使い始めた。
ボロアパートではセキュリティ上の問題があると芸能事務所から言われ、比較的移動に便利な土地に一戸建てを買った。
それまで質素な恰好しかしていなかったメイのママはお洒落をした途端にまだ若かったこともあり、急に綺麗になって周囲を驚かせた。
そこで、女癖の悪い監督が早速手を付けたという訳だ。
大人である舞台監督との火遊びは、まだ若いママには刺激的でとても楽しかった。
メイの父親よりもお金もあったし、女好きの舞台監督は女の身体を弄ぶのも上手かった。今寝ている女が感じる場所を見つけるのが得意な男だった。
メイの父親はママと同い年だったのでまだ女性経験も少なく、ママは身体を満足させてもらったことは余り無かったので、舞台監督と寝て女性としての快感を得る楽しみを覚えたママはもう舞台監督と離れたくなかった。
ママは色々考えた末、犬がいた方が様々な面で都合が良いと考え、それなら。と早速次のメイの休みに犬を買いに出かけた。
メイはまだ保護者が必要な年齢なので、犬を買いに行く時には当然ママと一緒に行った。
ペットショップに行くはずだったのだが、ペットショップのある駅で保護犬の団体が呼び込みをしているのに出会った。
それが、メイとランの運命的な出会いだった。
ランは檻の中に入っていて、真っ白な長毛種でモフモフしていた。
綺麗な青い瞳をしていた。
小型犬とは程遠い、既にメイと同じような大きさの犬だった。
係員「この犬はおとなしいんです。ミックス犬で犬種は分からないけど、持ち込まれたときに8歳って聞いていたから、今9歳位かな。
大型犬ですし、これからだとあまり長生きはしないかもしれないですね。
お嬢さんにって言う事だったら、もうちょっと小さい犬の方がいいかもしれないです。」
でも、メイはこの青い目の犬と目が合った瞬間、この子に決めた。と思った。
ミックス犬の方も、普段はおとなしく、眠ってばかりいると聞いたのだが、立ち上がって、メイの手をずっと舐めている。
メイ「ねぇ、ママ。この犬が良い。」
ママ「でも、メイすぐに・・・」
と言いかけたが、すぐに死んでしまうのだったら、それはそれで、一度はメイの希望を聞いたのだからそれでよいではないの。とママは考えた。
ママ「何か手続きがいるのでしょうか?」
係員「お家は?」
ママ「一戸建てです。」
係員「散歩は?」
ママ「私も手伝います。」
ママは心の中で舌を出しながら嘘をついた。
メイが犬と留守番をしている間、自分の時間を持てるのだったら嘘なんていくらでもつく。
係員「お嬢ちゃん、本当にこの犬で良いの?あれ?もしかして、九重メイちゃん?わぁ、こんなお家に貰われて行くんだったら心配ないですね。
普通だったら、お家の様子見せてもらいに行ったりするんですけど、いやぁ、メイちゃんのお家だったら大丈夫でしょうね。
ちょっと前に一戸建てに引っ越したんですよね。テレビで見ましたよ。
立派な家だった。庭も広かったし。
今日、このまま連れて帰りますか?」
普通だったら、譲渡犬や譲渡猫の審査はとても厳しいのに。
この係の人はあまり普段は犬や猫に接しない人なのだろう。
相手が有名な子役と言うだけで、犬の譲渡を決めてしまった。
結構な大型犬だったので、その駅の周囲でまずは行く予定だったペットショップに行って、リードと首輪を買った。
それから犬も乗せてくれるタクシーを呼んで家まで戻った。
ママ「メイ、何て名前にするの?」
メイ「ランだよ。もうね、さっき目が合った時に決めたの。っていうか、僕はランだよ。って聞こえたって言うか・・・」
ママ「いいわねぇ。子供は犬の声が聞こえて。」
ママは面白がるように鼻で笑って、それでも
「家に帰ったら、色々揃えなくちゃね。」
と、言ってくれた。
メイはママの事が嫌いではなかった。
色々と奔放ではあるし、演技などに関しては厳しいけれど、暴力を振るわれたことはないし、ご飯をあまりもらえないのだって、メイが可愛くしていられるために考えてくれているのだ。
ただ、ママ自体が幼かったために、あまり良い方法は取れていなかったが、メイにとっては良いママだった。
家に帰ると、ランをどの場所で育てるかをまず決めた。
ママは監督が来て、一番目に入るリビングの隅にトイレと普段いるケージを設置することに決めた。大型犬を見た監督はきっと二度とこの家には来なくなるだろう。
餌と水はリビングでしか与えないように決めた。
でも、メイはランとずっと一緒にいたいというので、子供部屋にしては広いメイの部屋にもランがいる場所とトイレを設置することにした。
ランとメイはお留守番をして、ママは保護犬の係員にもらったリストを持って、再びタクシーに乗り、近くのホームセンターまで買い物に行ってくれた。
ママが帰宅すると、メイはご飯のボウルとお水のボウルを洗って、さっそくマットを敷いた場所でお水とご飯をあげた。
ランは躾もなにもされていないのに、メイが『よし。』というまでお座りの姿勢で待っていてご飯を食べなかった。
トイレも最初からきちんとトイレシートの上でして、メイはすぐにそれを片付けて新しいシートを用意してあげた。
ママ「躾はきっと前の飼い主がしていたのね。よかったわ。粗相をする犬じゃなくて。」
メイ「ランは何でもできるよ。トイレを片付けてもらうのも本当は恥ずかしいって。」
ママはまた鼻で笑ったが、とりあえず、メイとランだけで留守番をしても、家の中が散らかることはなさそうだとみて取って、ランが来た日には、もうすぐに夜遊びに出かけていった。
ママには舞台監督の他にもボーイフレンドがいることをメイは知っていた。
メイはランと一緒にいるから留守番は大丈夫だと言って、母を送り出した。
だって、ランが言ったんだもの。
『お母さんは、監督からメイを守るために(まぁ、それだけじゃなくて自分も楽しみたいからだけど)外に出かけるんだよ。』
って。
*****************
ようやくメイが来た。
俺が今の姿になって待っていた九重メイ。
俺の本体も、まぁ犬っぽいけど、本当はもっと大きい。
座っていても5mはあるからできるだけ小さくなって化けている。
あぁ、俺は犬って言うよりも元々はオオカミの化身の魔犬属なんだけど、そこの王子なんだ。
可愛いお嫁さんをもらうために人間界に来たのさ。
山の神としてあがめられていた俺たちの祖先は、人間に仕えることをしていた時期もあるけど、今は単独で王国を作っている。
長男の王子は王にならなくてはいけないから元々化ける能力もない。
同じ種族とつがいになって子供を作り、子育てをしていく。
でも、跡取りではない俺は別の種族ともつがいになれるように、その姿に化けることができるんだ。
化けられる姿は生まれたときから決まっていて、化けた姿で同じ年の異性とつがいになると、どちらも幸せになれると、昔から言われている。
俺は小さい頃から人間に化けることができた。
だから小さな犬に(人間からすると大分大きいみたいだけど)変身する練習はずっとしていたんだ。決められた人間と出会うまで待っているには犬の姿がベストだろうと思ったからね。
それから、自然に出会わなければいけない。
お互い、見た瞬間にその運命の相手はわかるものだから無理やり会わされたんじゃだめなんだ。
うっかり血統書付きの犬に化けてペットショップになんていたら別の人間に買われちゃうかも知れないだろう?
だから俺は人間から言わせると「ミックス犬」ってやつに化ける練習をしたんだ。小さい犬に化けていた時に保護団体とやらに保護されたのも今の父王。つまり俺の父親の魔法の術の内だ。
俺たちは簡単な魔法を使える。
化けられるくらいだからそれは当たり前?
そんなこというなよ。
魔法を覚えるのは結構大変なんだから。
とにかく、保護されてから1半年。そろそろ脱走して、別の場所で運命の相手のメイを見付けようと思っていたんだけど、我慢していて良かった。
メイが近くにいる感触はあったんだ。
メイと俺は言い伝え通り目が合った瞬間にお互いの存在がわかった。
大型犬で10歳だから長生きしないって?
まぁ、普通の犬だったらそうなんだろうけどね。
俺はいわゆる魔物だから、人間よりは寿命は長い。
そもそも犬は化けている仮の姿なんだからね。
同じ年の種族との婚姻にも意味がある。
化けたときの年齢はその種族と同じ年齢になるからなんだ。
だから今、俺が人間に化ければ9歳の小学生だよ。
まぁ魔法が使えるから9歳って言っても人間よりは楽に生きられるけど、それだときっと保護者とかいう人間も用意しなければいけないだろう?
タイミング的に今の年代には人間で保護者に慣れる魔犬属はいなかったんだ。
とにかく、メイが中学生になるくらいまではこのままの姿で、じっくりとメイの観察をするんだ。
犬でいた方がメイと一緒にベッドにも入れるしね。
人間の子どもじゃ、同じ部屋とか一緒のベッドとか無理だもんね。
でも、メイが嫌がらないんだったら、ママにばれない様に、メイの前で人間になってもいいと思ってるんだ。
それには、人間に化けたときにメイを守れるくらいの大きさに化けたいし。
やっぱり中学2年か3年だろうなぁ。
それまでは忙しいメイを俺の自慢のモフモフで慰めてやるんだ。
きっと俺の魔力で今よりもよく眠れるようになるし、もっと体も大きくならなきゃね。
子役は小さい方がって言うけど、メイは小さくて弱っちい。とてもじゃないけどこのままじゃ魔犬属とつがいにはなれなさそうだから。
身体があんまり小さくて、俺と婚姻を結べないのも困るからね。
俺が来たから、メイのママはメイには安心して留守を任せられるだろうし、それを良いことにママがいない時間は長くなるだろうけど。
俺が頼りになるってところをママにもメイにも見せておかなきゃいけないな。
うん。まぁ、いい機会を待つことにするよ。
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