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序章 レティシアの黄金
それは、ひどく不躾な視線であった。
動揺が表れたか、アルフォンスの翡翠色の双眸が微かに揺れる。
天幕の隙間風に黄金色の髪がそよいだ。
やはり来るのではなかった、こんな敵地のど真ん中に──後悔の念が早くも押し寄せる。
それでも、だ。己を映す黒曜石色の眼をまっすぐ見返したのは、敗国の将としての精一杯の矜持か。
「使者を寄越すと聞いたときは斬って捨ててやろうと思っていましたが、まさかレティシアの黄金──アルフォンス殿下が自ら来てくださるとは」
黒衣をまとった男が豪奢な椅子から立ち上がる。
軽く両手を広げてみせたのは、歓迎の意を示しているのか。
斬って捨てるという言葉に、アルフォンスは奥歯を噛みしめる。
駄目だ、動揺を悟らせてはならない。
軍事力で著しく劣る自国レティシアが生き残るか否かは、ここからの自分の言動にかかっているのだから。
「このような夜遅くに、大国グロムアスの国王陛下が出迎えてくださるとは恐縮──」
「カイン、です」
「なに……?」
儀礼的な挨拶、その語尾を遮るように黒衣の男が歩を進める。
反射的に一歩身を引いてからアルフォンスは己に舌打ちした。
怖気ついては交渉などできやしないではないか。
さらに一歩。
近付く敵国の王を睨みつける。
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