20人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし王はアルフォンスが足を止めると、安堵したように手を放した。
黒ずくめの衣服。
ぴたりと詰まった首元から抜き出したのはこぼれる金色──素朴な装飾のペンダントである。
それは新興の軍事大国グロムアス国王の装身具としてはあまりに粗末な代物であった。
花を象った金色の小さな首飾りである。
洋灯の明かりにギラギラと反射するあたり、高価なものとは思えないし、鎖はところどころ補修がされているようだった。
カイン王はそれを外すと、不躾にもアルフォンスの首にかけようとしたのだ。
「ずっと大切に持っていたのですよ。あなたに渡そうと」
「なにっ……」
絡んだ視線にアルフォンスはたじろぐ。
黒曜石の眼に燃えていたのは言い得ぬ情念。
「やめろっ!」
反射的な動きであった。
アルフォンスはカインの手を叩く。
金色の花が王の手から弾かれ、宙に軌跡を描いた。
敷き詰められた絨毯の上に音もなく落ちる。
「わ、悪かった」
無礼なのはこちらの方だ。
カイン王が大切にしている装飾品を落とすなど。
屈んで金色の花を拾いあげるアルフォンス。
はて、どこかでみたことがあるような装飾だと首を傾げたとき。
その手は再び王の腕に囚われる。
最初のコメントを投稿しよう!