迫るぶつかりおじさん

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春になろうかというある晴れた日の午後だった。その時私は夫と近所のショッピングモールへ出かけていた。夫が店を見たい、というので、私は待つことにした。吹上のモールの2階、通路にある透明なガラス手摺に右半身で寄りかかっていた。 ふ、と前を見ると、おじさんが歩いてきた。セーターにズボンという、ショッピングモールに相応しいラフな格好だった。知らない人だ。こちらへやって来る。 なんとなく、当時SNSで話題になっている「ぶつかりおじさん」を思い出していた。駅の通路などでわざわざ女性めがけてぶつかってくるおじさんである。痴漢とも嫌がらせともいわれるが、おじさんたちは何故そんなことをするのだろう。 ぼんやりとおじさんを眺めていると、なんだかまっすくこちらに向かっていないか? 歩みに迷いがない気がする。 嫌な予感がするので、一歩ほど下がってみる。おじさんの軌道からすると手前の、先ほどまで私がいた地点に到達するはずである。 ところがである。 おじさんが体の向きを微妙に変えた。軌道を修正したのである。あのままの軌道では、現在私が立っているところにドンピシャで到達するではないか。ロケット追尾システムかよ。 このまま黙ってぶつかられてなるものか。引き寄せるだけ引き寄せてやる。 おじさんはまっすぐこちらに向かってくる。真正面から顔を合わせてやってきているが、気づかれているかもしれないとか気まずいとか、そういうことは感じないのだろうか。まだだ。タイミングを合わせろ。 あと半歩でぶつかる、というところで、私は一歩、左側に踏み出した。 このタイミングで身を躱されると、すぐに止まれないことはわかっていた。 案の定、おじさんは私が寄っかかっていたガラス手摺に激突していた。 追撃システムをまんまと躱した気分である。 店を出た夫が戻ってきたので、一緒に歩きだした。おじさんはぶつかったまま動かない。 「何かあったの?」なんて夫はのんきに聞いてきた。 見ててわからなかったのか。見てなかったのか。
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