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はじまり(リベラsaid)
あの夜、時間潰しに散歩をしていたら僕はこの世界に呼び出された。きっと誰かが興味本位で行った儀式が成功したりでもしたのだろう。
久しぶりに見た平和な世界がどこか懐かしく思えた。
僕は拙い魔法陣の上にいて、儀式を行ったのは黒髪で少し気弱そうな少女だった。ロウソクの光に照らされた彼女の顔には、少し緊張が走っている。
「こんばんは。」
ただ黙っているのも良く無いだろうし、僕は軽く挨拶をした。すると、彼女はぎこちない笑顔を浮かべて、
「えっと…透空、私は八神透空っていうけど…あなたは?」
と名乗ってくる。驚いている割に、興奮気味に僕を見つめている。
「僕の名前はリベラ。よろしくね〜」
そう言いながら、彼女の顔をじっと見つめた。内向的で大人しいけれど、どこかこの“特別”な出来事を喜んでいるような、期待に満ちた瞳がなんとも、平和で純粋で羨ましく思える。
それから僕は、透空の家にこっそり住まわせてもらうことになった。最初は物珍しそうに僕に質問してきていたけれど、僕の素性についてはまだ教える気はない。
そういえば…今頃みんなは何をしてるんだろうか。流石にちょっと寂しいな…
ある日、彼女が学校から帰ってくるなり、少し不安そうな顔をしていた。僕がなんとなく窓辺で外を眺めていると、透空がぽつりと話しかけてきた。
「ねえ、リベラ…あなた、どこから来たの?」
彼女の質問には、ただ軽く肩をすくめて
「君には関係ない場所だと思うよ」
とだけ返しておいた。僕の過去を教える気はないし、知ったところで彼女にとっては理解し難いことばかりだろうから。
それでも彼女は僕に興味を持ち続けていた。
そして、学校で何かしらの違和感を感じ始めていることも、すぐに僕には分かった。ただの人間の目はごまかせても、僕にはわかる。彼女の周囲で、何かが動き出している。
きっと僕に引き寄せられて神話生物か怪異でも寄って来たのだろう。
やがて、透空が
「もしかして、私のせいで何かが起きてるの?」
と尋ねてきたときには、僕は正直に答える気はなかった。とりあえず、
「君が“特別”になりつつある証かもしれないね」
と言ってみた。一般人の彼女を少しでも勇気づけられる言葉をかけてあげたかった。
僕の“特別”はもう色褪せてしまったけれど、
彼女にとってはまだそれがどんな意味を持つのか、知らないようだから。
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