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かえりみち
リベラsaid
透空が何かを気にしている。背中越しに伝わる震えと微かな息遣い。
やっぱり、あの化け物に彼女の心が少し揺らいでいるんだろう。
「どうしたの? 透空、そんな顔して」
私の声に、彼女は驚いたように顔を上げた。まだあの出来事が頭から離れないのか、
どこか混乱したまなざしが向けられる。
「……いや、なんでもないよ。」
透空の返答はぎこちなかった。
僕はなんとか元気になってもらおうと透空の肩を軽く叩いた。
「ふーん。変なことでも考えてたんじゃないの?」
彼女の震える肩に触れると、その温もりが僕の手に伝わってきた。
この温もりは僕には久しいものだったから…少し笑みをこぼしてしまう。
みんなも温かかったけど…透空はなんだか“彼女”に似ている。
「リベラ…その、さっきの怪物、簡単に倒してたけど…あの力って…」
透空が迷いがちな声で問いかける。その問いに、僕は肩をすくめるだけ。
だって、僕の「力」を、今の段階で話すのは無粋でしょ?
少しぐらいの秘密は残しておいたほうが、どちらにも良い影響になるだろうから。
「ん〜、どうしてだと思う?」
僕はわざとらしく考えるふりをするけど、別に意地悪をしているわけじゃない。
ただ、すべてを教えてしまうのは退屈だし、今はまだ彼女が知る必要もない。
「まあ、知りたいなら気長に待っててよ」
軽く告げると、透空の顔にほんのりと不安と好奇心が入り混じった複雑な色が浮かぶ。
「じゃあ、これからもよろしくね?」
「ふふ、どうしようかな?」
こんな平和が僕の世界でも続いていれば、もしかしたら僕は…
いや、どうせもう終わった話だ。
深い夜の静寂の中で、僕たちは黙って歩を進めていく。
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