1900.11.20

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1900.11.20

 雪は激しさを増していた。  よく晴れた昼下がりに出発したのにこの有り様。足がもつれよろける度に、体勢を元通りにするのに苦労する。着いた手が雪に埋もれて悪態をついた。  目指すは蜃気楼のように見え隠れするログハウスだ。距離感は掴めない。近いと思ったが一向に着かないところを考えると、遠くにあるのかもしれない。とにかく一刻も早く辿り着かねばあの世行き。アシュリーは藻掻きながら進んでいく。  思い返せばいつだって選択を間違えていた。生まれた時も学校を卒業した時もあの時もこの時も。今日だって街を出ないでおこうか、出発しようか迷った。そしてどうやら間違えたらしい。明日から天気が崩れると新聞で見たから飛び出してきたのにこのザマだ。  凍傷にかかっているのか、四肢の端々が痛い。そんな中、なんとか叩いた木製の頑丈なドア。始めは控えめに、悠長に待ってなどいられずどんどん激しく叩いていく。 「誰だ」  中から男の声がして、アシュリーは助かったと思った。 「すみません! こちらダグラスさんの別荘ですよね?」 「……そうだ」 「一昨日、ダグラスさん宅から連絡を貰ったという人がうちに来まして──アスピリンを一瓶届けて欲しいということで間違いなかったでしょうか?」  やっとガチャガチャと鍵を開ける音がし、重々しい扉が開かれた。ジェームズ•ダグラスはアシュリーの想像よりずっと端正な顔立ちの若い男だった。抱えているのが猟銃でなく花束なら完璧だっただろう。 「そんな注文はしていない」 「え……」  赤毛のアシュリーの姿を上から下までジロジロと観察してから、顎でしゃくって中に入るように促した。 「しかし、たかだかアスピリンの為に命を張るのか? 頭がおかしいんじゃないか」  怪訝そうな顔も新聞で読んだジェームズよりずっと若く美しい印象だ。 「街を出る時は降っていなかったもので」  ため息をつきながらジェームズはついてくるように言った。
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