プロローグ

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プロローグ

《永遠に近い寿命(とき)を生きる長貴種にとって、恋をすることはその相手を看取ることを意味する。どの種族であっても長貴種よりも長く生きることはかなわず、長貴種よりも丈夫であることはない》  私は年季の入った厚い本を閉じた。この本はこの世界で一般的に読まれているエーリック•オクセンバリーの『種族誌』である。この世界に生きるありとあらゆる種族について調査し、記したこの本はこの世界に生きる様々な種族達の聖書(バイブル)となっている。 「神様は残酷だわ。かつてこの地に栄えた人類が滅びた後に、100の種をお造りになった神様は、決して同じ種族で番うことを許さなかった。自分と異なるものを受け入れよとでも云うのかしら」  他の種族に比べて数の少ない長貴種である私、イリアは、その長貴種たる象徴である横に長い獣の耳と、鹿のような角を揺らした。角には紫の果実が実り、この霊薬は万病に効くといわれている。オフホワイトの長いウェーブのかかった髪をした頭を隣の男の肩にのせると、男は私をギュッと引き寄せた。 「もう気にしなくていいだろ。俺ならお前を永遠に愛せるんだから」 「ヒューゴ……!」  彼は私の恋人。再生種のヒューゴ。鍛えた上半身を惜しげもなくあらわにした彼は、屈強な身体つきをしている。陸にいる時はまるで人間のような姿をしているけれど、水の中に入るとまるでクラゲのような口腕ーーふわふわとした帯のような触手ーーが現れる。神様が永遠の命のもう一つの形としてデザインした存在だ。
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