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チャプター02
他人と合わせるのが下手だった。母から愛想がないと言われ続けて育った。愛想笑いも気持ち悪いと叱られた。女の子なら、もっと可愛く笑っていなさいと。それだけで幸せになれるのだからと。でも本心が分からない相手と向き合うのが怖かった。だから私は、ずっと着ぐるみを相手にする道化師を演じてきた。
誰も私を知らない所に行きたかった。最初から私のままでいられれば上手くゆく。そう思った私は無理をして東京の大学に入った。知識よりも女として生きる知恵を身に付けなさいという母から逃げるように、希望をもって憧れのキャンパスライフに身を投じた。
しかし住み慣れた街で共に過ごした同級生と友達になれない私が、知らない街で知らない人と関係を築けるわけがなかった。サークルはノリが嫌ですぐにやめた。値踏みされているような女子の会話にも入れなかった。結局、勉強しかすることがなく、適当に選んだ学部の成績だけが私の存在証明となった。
バイトと大学。他に何もない毎日。一人カラオケも、一人焼き肉も限界をむかえ、やがて部屋で一人呑むのが一番自分のままでいられる時間だと気が付いた。
酒をのみ壁に向かって愚痴を言うようになった。そうしていつベッドに入ったのか、目が覚めると心も頭もリフレッシュできていた。それが徐々にいくら呑んでも眠れなくなり、自分を嫌いな自分と向き合う時間が出来てしまった。
二日酔いは治っても、自分への嫌悪感は蓄積する。そしてあの日。私は深酒で睡眠薬を飲んだ。世界が歪んで見えると、自分がまともに思えた。遠退く意識の中、誰かが私の名を呼んだ。それが理仁だった。
朝目覚めると、ぐっすりと眠れたのか驚くほどすっきりしていた。空になった水のペットボトルが介抱の後をうかがわせた。
「きっと吐いたりもしたんだろうな」
ゆっくりと立ち上がり、申し訳ないことをしたと思いながらカーテンを開けると、心地好い日差と感謝の気持ちで満たされる自分がいた。
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