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チャプター05
「あのー。飯塚さん?」
珍しく女子から声をかけられた。それは初めて入ったサークルで、はじめて会話を交わした子だった。凄く周りを気にして声を潜めている。
「友達からは止められたんだけど。ちょっと聞きたいことがあって」
その様子から、理仁のことだろうと私は直感した。これは彼氏もちを公言できるチャンスだ。
「いいよ。なに?」
「えーと。最近、歩いてる時や学食なんかで話してるみたいじゃない?」
ほらきた。聞いて聞いて。
「イヤホンマイクじゃないみたいだし。飯塚さん、誰としゃべってるのかなと思って。ごめんね変なこと聞いて」
あれは彼氏の。と言いかけて、私は彼女の言葉を復唱した。
「誰と? 隣にいる彼の事だよね?」
「隣に誰か居るの?」
少し身を引いた彼女は、眉間に皺を寄せて私の隣に視線を向けた。
「今は居ないけど。え? 私が話してる時、隣に居るでしょ。理仁」
「あーそうなんだ。そうか、そうか。ありがとう。ごめんね」
逃げるように立ち去る彼女の背中を見て、私は胸騒ぎがした。その夜、どんなに会いたいと願っても理仁は来なかった。
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