7人が本棚に入れています
本棚に追加
チャプター08
「理仁!?」
状況を把握するのにしばらくかかった。そして飛び起きた私はキッチンへ走り水をかぶると、そのまま部屋中を見渡した。隠れられるほどの広さなんてない。踏みつぶした薬が嫌な音を立てた。恐る恐る玄関を確認するとチェーンがかかっていた。自分の頭がおかしくなったのだと思った。
『このみが僕を呼んだんだよ』
望まない毎日に疲れた私は。限界を迎えた私の精神は。自分を癒す存在を求めた。そしてあの夜、理仁を呼んだ。
「そんな事って」
自分で自分を慰めていたなら驚くほどの相性も理解できなくはなかった。でも昼日中、人目の多い大学で会っている。
「そっか」
それほど私は理仁に依存し、壊れかけていたんだ。そしてそれは、私の中で理仁の自我をも生み始めてしまっていたのかもしれない。
私は部屋を出ると駅まで歩き電車に乗った。とてもそのまま寝る気にはなれなかった。理仁が来てしまう怖さもあった。
自分が変われると思った新生活は叶わず、少しずつズレてしまった日常を、私は偽物で誤魔化してしまった。現実を受け止めないといけない。その為にも東京から出ないと。
東京に逃げて来たのに、今度は東京から逃げようとしている自分の成長のなさが情けなかった。
『だから言わんこっちゃない!』
実家に帰った時の母の表情が目に浮かんだ。面倒臭いと思いながらも、どこか安心している自分がいた。
東京駅に着くまでの間、夜行バスを調べ残っていた電子チケットを買った。とりあえず実家に向かって、あとの事は落ち着いてから考えよう。
夜行バスの列に並んでから、手ぶらで怪しまれないだろうかと思い始めた。運転手にチケットを見せ、乾いて癖を取り戻した髪を手櫛でとかしてバスに乗った。
ほどよい空調と、規則的な振動が眠気を誘った。もう二度と理仁を呼ぶもんかと胸に誓い、私は瞼を閉じた。
〈Tokyo Lovers〉
最初のコメントを投稿しよう!