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「ね、おかあさん。ほんとうにだいじょうぶ?」
娘が私を心配そうにじっと見ている。
「うん。心配掛けてごめんね」
弱々しく言うと、娘はキッと私の母を見た。
「おばあちゃん。もっとたいへんってなに? おかあさんはたいへんなの! いたいいたいなの!」
娘は母にそれだけ言って、うずくまっている私の頭をよしよしした。
母の顔を見ると、ぽかんと口を開けていた。
私はと言うと、ちょっと笑いをこらえるのが大変だった。
ずっと言いたかったことを娘がたどたどしい言葉で言ってくれた。
あの母に育てられた私が育てた娘が、代わりに言いたいことを言ってくれるなんて。
そう。他の誰かは関係ない。どこかに私よりもずっと大変な人がいるのはわかっている。私がこの世界で一番不幸とか、そんなことは思わない。足ひねったくらいすぐ治るんだから、と言いたいのもわかる。
だけど、みんなそれぞれに大変なんだから、比べることなんて出来るはずなんか無い。
他にも大変な人がいるから我慢しなさいなんて変じゃない!?
私は今、痛いんだから!
そんなときにわざわざ他人のことなんか言わなくてもいい!
私は、ずっと母にそう言いたかった。
ただ、大丈夫? と声を掛けて欲しかった。
本当にそれだけだった。
「ありがとうね」
まだ足はずきずきするけれど、私は娘に微笑みかける。
何度も母の呪いみたいな言葉を娘に掛けそうになったことはある。だけど、娘には私みたいな思いをして欲しくなくて、がんばって飲み込んできた。
「よしよし」
今度は私の足をさすってくれている娘を見て私は思う。
いい子に育ってくれてありがとう、と。
この子は、私の母に呪いを掛けられることはきっと無い。
そして、もう、私も。
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