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でも、僕らは保育士だ。
仕事でいちばん大切なのは『受容』であって、子どもを、ひいては相手を丸ごと受け止めることにある。様々な感情表現をまずは個性として捉え、共感することから始めるべきだ。
そう思いつつ、僕も彼女を素直に『受容』できずにいるのだけど。
「渓くん。お母さんに会えて嬉しいね」
僕は立ち上がって声をかけた。前に回って覗き込むと、渓くんは僕に訴えるようにまた泣き顔になった。僕は彼を抱き上げると、連絡帳とタオルを持ってお母さんの元に歩いていった。
「ほら。お迎えだよ」
お母さんに渓くんを預けると、抱きしめられて気が済んだのか彼はすぐに泣き止んだ。あっという間に笑顔になって、自分の靴を取りに行く。
「紫乃先生。ありがとうございます」
お母さんが僕に頭を下げた。
「他の子は笑顔なのに、何で渓は泣いちゃうんでしょうね」
「ほっとするんでしょう。園では楽しく過ごしてますけど、やっぱりお母さんと一緒にいたいですよね。もしかしたら、気づかないところでストレスがあるのかもしれません。それは僕らの課題でもありますけど」
「ほっとする…、そうか。そうなんですね」
「お母さんがお迎えに来てくれた、って安心するんだと思います」
お母さんが嬉しそうにはにかんだ。僕も二人の笑顔に、心がじんわり温かくなった。
「でも、私もまだ第一子でわからないことも多いですけど、渓はやっぱり変わってると思うんです」
昨今は発達関連の情報が簡単に入手できるようになり、気にする保護者も増えている。渓くんは二歳になったばかりだ。言葉は少しずつ出てきて遅い方ではない。どちらかと言うとおっとりしていて、全体で集合した時にこちらの話や遊びに集中できない印象があるが、自分の世界に入り込んでしまうのはこの年齢ならよくあることだ。
そして、保育士は医師ではない。余計な印象操作や、偏った視点でラベリングをすることだけは避けなければいけない。
「まだまだこれから成長していきますからね。渓くんは愛嬌があって、いつも皆を笑顔にしてくれるんですよ。でも、もし何か気になることがあれば、専門の先生にお話を聞くこともできますから、いつでも相談してくださいね」
お母さんは不安を吐き出して、少し気が晴れたようだった。
「はい。ありがとうございます!」
「せんせい、ばーばい」
渓くんは笑顔でお母さんと帰って行った。
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