落ちぶれていった男と幸せを掴んだ女

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 涼しい顔で微笑み返し、軽く礼をして屋敷を後にした。  実の所、もう戻るべき実家もない。  父が再婚した後、伯爵家は新しい妻とその連れ子、義兄であるフィリップが幅を利かせており、私が入り込む余地は最早なかった。これが元義母の高笑いの理由でもある。  私は領地の片隅にある、今は誰も使ってない小さな別邸へと移り住み、静かな一人暮らしを始めることにしたのだ。 「ふぅ……。とりあえず形にはなったかな」  屋敷の整理を終えた後、私は母から託された家宝の宝石を取り出した。  単なる装飾品に見えるその宝石は、魔法が掛けられており、特定の呪文を唱えることで中に隠された金塊が取り出せる仕組みになっている。 「母様、あなたの知恵に感謝します。」  元は嫁ぎ先の家計に暗雲が差し込めた際、助ける為に持っていたものだが……。今となってはもう誰かの為に使う必要も無い。  魔法を解き、取り出した金塊の極一部を換金しながら、私は慎ましくも快適な生活を始めた。  一方で、ベレトン家は混乱の渦中にあった。
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