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石作皇子と仏の御石の鉢
かぐや姫は、本当に美しい。その美しさは、全く、地上のものとは思われない……。
そんな噂が身分の上下を問わず世の男たちの間に野火のように広がって、姫の姿を覗き見るために、竹取の翁邸――翁は、竹の中に姫を見つけた後、同じく竹の中に金を見つけることまで続いて裕福になった――の周囲をうろつく者たちが途切れない。翁は番人と番犬を増やして対応したが、はたして、数名の公達たちだけはどうしても諦める様子が無い。
姫も妙齢であり、翁自身もいつ死ぬか分からないような高齢だ。
翁は、結婚をするように姫に勧めた。
すると姫は、言い寄ってくる公達たちに非常な難題を課して、これを達成できた者と結婚すると約束した。
石作皇子に課された試練は、天竺にあると言われる「仏の御石の鉢」を手に入れることだった。
さて、皇子は旅立ったふりだけをして、のらりくらりと三年が徒過。
最終的に、大和の国にある山寺で見かけた粗末な鉢をつかんで竹取の翁の邸宅を訪れ、かぐや姫とうっすら御簾越しに向き合った。
「この私、石作皇子が、大冒険の末に姫のご要望を叶えました」
皇子がじっと姫の気色をうかがうと、贈られた品を手に、姫は明るい声を返した。
「わたくしに対する誠実なお気持ち、確かに受け取りました」
皇子は、ほくそ笑んだ。
「近づいて、口づけしてよろしいでしょうか?」
しばらく間があって、姫は答えた。
「はい……はしたないことを申し上げてしまいますが、わたくしもそうしたく存じます」
皇子は、いよいよ得意満面になった。
力強く立ち上がり、力強く歩み出す。
ついに皇子が御簾をくぐると、自身の生涯で出会う中で間違いなく抜きん出て見目麗しいと思われる、輝くような女性がそこにいた。
ついでに一頭の番犬もいて、そばで静かに寝そべっていた。
皇子は戸惑った。
番犬の体は、皇子が生まれて初めて見るぐらいに大きかった。いっそ牛のようだった。
並みの番犬には怯えぬ皇子も、さすがに戸惑いを隠せない。
「こ、これはまた、何を食べてこうまで大きく」
「とっても可愛らしいと思いませんか?」
姫は、たじろぐ皇子に向かってにっこりとした。
……姫は、皇子のでたらめを見抜いていた。「仏の御石の鉢」の本物は光りを放つものだと承知していたが、皇子が持ってきたニセモノはただくすんでいたのだ。
姫はこの巨大な番犬を起こして口づけし、「ではここへ」と言って番犬の口を皇子に向けた。
(了)
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