みひろちゃん

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夕飯を作っているあいだ、弘美がままごとをしていて邪魔してこないのは 助かるには助かる。 「ママ、ただいま、パパ帰ってきたぞ」 正雄が弘美のそばに座り込む。 「パパおかえりー、みひろも、ただいま言って。 あたしたちのために、パパが今日も、おしごとがんばってくれたよ」 「もちろんさ、パパはママとみひろと美紀の為に頑張るからね」 「みきってだれ?」 炒め物をする美紀の手が止まった。 「美紀は、弘美の大切な家族だよ」と、正雄が言う。 「みきなんて家族は、いないよー」 何かおかしい。 ままごとで母親になりきる、それだけならわかる。 自分を祖母の設定にするのも、嫌だけど有り得る。 そこから『美紀なんて家族はいない』とは、どういうことだろう。 炒め物が焦げそうになり、慌てて手を動かす。 スーパーから帰ってきて、極端に状況が変わった気がする。 『育てちゃ、いけないものだよ。元のところに戻さなきゃね』 見知らぬ青年は、そう言っていた。 もしかして、みひろとママ、それが本当の家族になろうとしてる? だから『美紀という名の母親』を忘れていく? どうにか夕飯は作れたけれど、美紀はほとんど食べなかった。 それでも弘美は心配の声をかけてこない。 「みひろ、ママとパパと三人で幸せに、くらしましょうねえ」 「ママとパパと暮らす......?」 「そう、三人だけで、なかよく」 「パパの名前は?」 「まさお」 「やめて!」 そのとき、部屋の電気が消えた。
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