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「お子さん、危ない遊びしてますね」
「は?」
スーパーで弘美を連れて買い物をしていた美紀が、学生服にコートを着た
見知らぬ若い青年に声をかけられた。
細身で細面の顔立ちで、広い口元と切れ長の目はキツネを思わせた。
「その子、大事にしてるモノがあるでしょう?」
「はあ、はい、それが、なにか?」
「お子さんは霊感体質です。モノに霊力を注いで育ててしまっている」
「あの、なんですか急に」
「お子さんのやっていることは危険です。やめさせてください」
「やめないよ、だいじだもん!」
色とりどりの野菜が並ぶコーナーで、青年は、しゃがんで弘美へと
目を合わせた。
「育てちゃ、いけないものだよ。元のところに戻さなきゃね」
頬をふくらませて、セミショートにしてる髪を弾ませて、弘美は
大げさに、そっぽを向く。
青年が立ちあがり、今度は美紀を見つめてきた。
「かなり育ってきてますよ、お母さんなんですよね?
あなたが対処するしかないです」
せわしなく棚に商品を並べる店員、レジに並ぶ列、はしゃぐ子供。
いつも通りの平穏な世界において、美紀だけが不穏に包まれていく。
「大丈夫、強い味方もいます。あなたは塩をまくだけでいい」
青年が口元をゆるませながら言った。
「塩を?何に?」
「そんじゃまあ、お気をつけて」
青年は手を振って去っていった。
スーパー内の何も買わずに。
自分たち親子に話しかける為だけにスーパーにきた?
ほどよく気温の調節された店内で寒気を感じた。
「おばあちゃん、みひろが、お肉を食べたいって、言ってるーっ」
「おばあちゃんじゃなくて、お母さんでしょ!」
「だって、あたしママだもん、パパもいるもん」
確かに弘美は常軌を逸している。
ままごとに夢中になり過ぎている。
美紀は豚バラを買った。
それは弘美の為ではなく、夕飯を作る為だ。
そして塩も買ってしまった。
自宅にあるのは調味料用のものだから、もっと清らかそうな塩を選んだ。
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