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ニューヨーク近代美術館からグランドセントラル駅に向かうストリートは、週末になると彩とりどりの大道芸人やミュージシャンでかまびすしい。
バイオリンとチェロ演奏の美人姉妹、老人姿で高い椅子の上に立つストップパフォーマー、ガットギターの弾き語りやアルトサックス奏者などなど、人種や演目も雑多で、実にこの街らしい場所であるといえる。
その一角に、電子キーボードの弾き語りをしている白人青年がいた。
スピーカー、バッテリー、リズムボックス内蔵のシンセサイザーにマイクをつなげて、早逝した世界的ミュージシャン『マシュー・ジョーンズ』のヒット・ソングをカヴァーする青年。
だらしなく伸ばしたセミロングの金髪、まだ少年期から抜け出していないような赤いニキビの頰、チープなファストファッションは、流行から取り残された酪農家の三男坊といった見た目だった。
前に置かれた楽器ケースの中には、数枚の紙幣とコインが少々。
隣のブロックで踊っている黒人ヒップホップダンサーとの収入格差は、20ヤード離れた誰の目にも判断できた。
青年はお客の人数とケースの中のお金を見比べ、今日の店じまいを決めた。
ケースの前にひざまずき、本日のギャラを集め始める。
「あら、もうやめちゃうの?」
青年は振り返り、声の主に愛想笑いをしようと顔を見て固まった。
6フィートの長身の頭髪はショッキングピンクのハーフツイン、大きなアーモンドアイに装着したサトウカエデの葉大のツケまつ毛、そしてダークパープルの唇の端が、絶えず愉快そうな笑みを浮かべている。
さらに驚いたのは、レインボーカラーのタンクトップからはみ出しそうな、ニセモノのシリコン製乳房の上には、乳牛のあご髭より立派な胸毛を生やしていた。
合衆国北西部の田舎町出身の青年は、テレビや雑誌以外では見たことのない『ドラァグクイーン』の実物から目が離せないでいた。
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