ディス イズ リアル

2/9
前へ
/9ページ
次へ
「あなたの歌うMJの曲、どれもステキね。でも、あなたの年だとリアルタイムじゃないでしょ、どこで聴いてたの?」 「ボクの町では、今でもリアルホット20に入っているんだよ」  ぶっきらぼうに答える青年に 「MJがまだ生きている町なんて、あなたもアナザースカイ(あの世)から来たのかしら?」  とドラァグクイーンは笑った。 「キミの話はよくわかんないけど、故郷のヤキマではまだ流行っているのさ」 「まあ、異世界の町の名前。そこはどこのフェイクアース(偽地球)にあるの?」 「スポーケンの近くだよ。知らないかい?」 「あら? 聞いたことがあるわ、たしかノースコリアだったかしら?」 「冗談じゃない! ワシントン州でシアトルの次に大きい街なんだぜ」  ドラァグクイーンは肩をすくめて 「どうやらあなたもホンモノの合衆国国民らしいわね、仲良くしましょう。それにしてもあなたの歌うマシューの曲、他の人のカヴァーと違って心に響くわ。本物の才能(リアル・フレア)ね」 「キミがモータウンレーベルのプロデューサーだったら、今ごろこのケースの中にはリアルマネーがあふれていたさ」  寂しい楽器ケースの中を覗いたドラァグクイーンは、 「スゴイじゃない! 50ドル札が2枚も入ってる!」 「よく見てくれ、直接ケースにペイントマーカーで書いたニセモノなんだ。コインを乗せるとホンモノに見えるだろ、いわゆる見せ金ってやつ」  そこまで話していた所で、青年のお腹からマグマの地響きの様な音がした。 「合衆国為替金融物偽造違反犯人の、今夜のディナーは何かしら?」 「多分、アパートに残っているダイジェスティブビスケットと、半パイントのクェーカーオーツだよ」 「ついていらっしゃい。ギャラの代わりにご馳走するわ。近くに、プリカデッレが美味しいジャーマンレストランがあるの」  青年は田舎者だと思われるのが恥ずかしいのか、モジモジしながら 「プリカデッレってなんなんだい?」と小声で(たず)ねた。 「そうねえ、よく言ってソールズベリーステーキのニセモノってところかしら?」  2人は笑い合って握手をした。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加