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「わたしの名前はクィーン・ザ・フォー二ー、もちろんダンサーネームよ。フォーニーって呼んで。あなたは?」
ドラァグクィーンのフォーニーは、黒ビールのグラスを乾杯させた。
「フォーニー(米スラングでニセモノの意)って!」
青年は50インチ以上はありそうな、彼女のニセ胸を食い入るようにみてニヤニヤした。
「男の胸をみるのは初めてじゃないでしょ、あなたが名誉侵害罪で捕まる前に名前くらい教えてよ」
「レジー、レジー・フレアっていうんだ…… レジーは…… レジットのニックネームで……」青年の声が、だんだん小さくなった。
「まあ、レジットってスラングでホンモノって意味じゃない! フォーニー(ニセモノ)とレジット(ホンモノ)。わたしたちいいお友だちになれそうね」
レジーはフォーニーとの会話を楽しんだ。
2人とも23歳と同じ年で、同じく10年前に23歳で他界した、キング・オブ・ロック『マシュー・ジョーンズ』の大ファン。
クルクル回転するフォーニーの知能は高く、話していても話題が尽きない。
「それで、2代目MJはこれからどうやって、マクビティービスケット以外の食事をしていくのかしら?」
「田舎から出てきて、色々なオーディションを受けたのだけど全然…… そろそろお金もつきてきたし、ウーバー以外のパートタイムを探さなきゃ」
「ならウチの店に来る?」
「えっ? よしてくれよ、ボクはストレートなんだぜ」
「バカね、ミュージシャンとしてわたしたちのダンスのバックグラウンドよ。ちょうど人がいなくなって探していたのよ」
レジーは食事中の会話から、フォーニーはロウワーマンハッタン(マンハッタン島の下町)・ソーホーにある、LGBTQのライブが売り物のクラブで働いていることが分かった。
最近世界的なムーブの性問題に焦点を当てて、フォーニーみたいなドラアグクィーンのダンスを中心に据えたライブパフォーマンス。
世界中から観光客が来る、ニューヨークならではの人気サブカルチャースポットになっている。
もちろん、客や従業員にもそういった性癖の人間も多く、虐げられたそのたぐいの出会いをサポートする目的もあった。
「じゃあ決まりね。マネージャーのブッチには話しておくから明日来てね」
「そんな簡単でいいのか?」
「あたしたちは今、コンピュータの音源で踊っているんだけどダメなのよね。なんか血が通っていないニセモノの音楽みたいで。多分わたしたちみたいな人種は、本物の肉の欲求に忠実なんだわ」
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