キャンドル

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暗い廊下を歩いてくる人物がいる。手に持つキャンドルの灯が闇を照らす。ゆっくりとした靴音が石畳を鳴らす。段々と近付いてくる。 少年は物陰に隠れていた。なんとかあの灯をやり過ごそうとしていた。 だが。 「見つけましたよ」 暗い、低い、感情の籠もっていない声が少年を覗き込む。 ひ、と少年は飛び上がる。 「そこにいたんですね。さあ、一緒に戻りましょう」 ここは地下通路である。広大な地下工場の一角にある。少年はここで働いていた。 1年の終わりが近いこの時期は、特に忙しくなる。全世界の子供に配るためのプレゼントを作らなくてはならないのだ。 昨今のリクエストは複雑化し、従来の工員には手が余る。そこで、電子機器の製造に明るい者の採用が増えていた。 少年もその一人であった。 「もう……許してください。このところ休みもなく、疲れが溜まって……」 「そんなこと、この仕事に応募した時点でわかっていたことでしょう」 そうだった。ちゃんと説明書にも記されていた。だが、まさかこんなに過酷だとは。 「知らなかったんです、こんなにも電気製品が求められていたとは」 少年は、電子機器に明るいとは言え、流石にドワーフである。限度があった。 「世界中の子供たちが待っているのです。今貴方が諦めたら、待っている子供たちはどうなるのですか。さあ、早く」 引き摺られるように連れて行かれた。 「許して、許してください、聖ニコラオス様……!」 「わあ、今年もサンタさんが来てくれた!」 少年は枕元にあった袋を開けて、目を輝かせていた。 「いい子にしてたから来てくれたんだよ」 と父は言うが、少年は3年ほど前から父が買ってくれたのではないかと推察している。 (でもそれを言うと来年から貰えなくなるかもしれない)と黙っていることにしている。 (気づかれずに他人の家に侵入して物を置くなんてできっこない) だが、少年は知らない。地下工場で働かされ続け、その後半年はぐったりと休んでいるドワーフ達がいることを……。
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