明るい日差しの下で

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明るい日差しの下で

「ねぇ、ちょっと明子。酷いじゃない。昨日手を振ったのに知らんぷりしちゃってさ。」  明子は親友の優子に肩を叩かれた。 「え?昨日?どこで?」 「大学の食堂だよ~。」 「私、昨日は講義なかったし、風邪気味だったから家で休んでいたわ。」 「え~?でも明子だったよ。服も何時も来ているのと同じだったし・・いや、休んでたなら別人かな?ごめんごめん。似ている人と間違えちゃったのかも。」    そういえば3日ほど前にそんなことがあった。と明子は、自分の目を疑っている。  道路の向こうを歩いているのは間違いなく明子本人に見える。  明子の憧れの鈴木先輩と腕を組んで歩いている。 『優子は、あの人と間違えたのか。でもそっくり。気味が悪いほど。』  明子は、先輩に彼女がいたというショックと、自分とそっくりな女が先輩の彼女だったというショックに襲われ、眩暈がした。  そして、それから3日後の今日、鈴木先輩に声をかけられて、あれは自分ではない。という言い訳もできず、自分の好きな先輩に誘われた嬉しさで明子は先輩の部屋についてきてしまった。 「次あった時はいいっていったろう?ほら、脱いで。」  鈴木先輩は声も上手く出ないし、動けない明子の服を脱がせ始めた。  でも、その部屋には鈴木先輩の他にも男性が3人もいる。  明子は優子に言われたことを思い出していた。 「鈴木先輩はやめときなさいよ。あまりいい噂を聞かないよ。なんでも悪い友達とつるんで薬飲ませて動けなくなった女の子に悪さをするって聞いたよ。」  さっき飲んだものに薬が入っていたのだろう。  明子は4人の男達に蹂躙され、乱暴に扱われ、ぼろ布のようになるまで開放してもらえなかった。  薬の効き目が切れても身体が動かない程に痛めつけられ、4人の男に何度も穿たれ、ようやく解放されたのは2日後の事だった。  裸同然の姿で人気のない駅前で放り出された明子は、そのまま意識を失い見つけた人が救急車を呼んでくれた。  明子が気が付いた時には病院で、身体は全て調べられていたし、その時の様子を見て、アフターピルも処方され、身体は内側も綺麗に洗浄してくれたそうだ。外傷は打撲と擦り傷で全治2週間ほどだという。  ただ、暴行の方は時間が経っていたのでもしかしたら妊娠の可能性もあると言われた。  明子は裕福な家庭の娘で、こんな目に遭ってしまったことを家の人には言えず、親友の優子に助けてほしいと電話をかけた。 「え?明子なの?だって、昨日も大学に来ていたわよね。」 「それは、きっと私にそっくりのニセモノだわ。私も見たの。鈴木先輩とそのニセモノが腕を組んでいたの。それで、鈴木先輩が私に声をかけてきて・・優子のいった通りになっちゃったよ。もう、鈴木先輩がいる大学には怖くていかれないわ。」 「じゃ、昨日私が会っていた明子はあなたのニセモノなのね?」 「明日も来る様だったら、できればここに連れてきてほしいの。話を聞きたい。」 「わかったわ。明子のふりして大学に来ているなんて許せない。もし来たら絶対に連れてくるから。」  優子は約束して電話を切った。  翌日、優子は明子のニセモノを連れて病室にやってきた。 「ねぇ、あなたは誰なの?私がこうなるって知っていて鈴木先輩に次はいいって返事をしたの?」  明子は涙を流しながらニセモノに聞いた。 「私はあんたのニセモノじゃないわよ。明美って言うの。あんたあの裕福な医者の家の養子でしょう?」 「えぇ。そうよ。こんな目に遭ったなんて、両親には言えないわ。(捨てられてしまう)」 「私たちは双子なのよ。一卵性のね。私もすぐに里親が見つかったけど、あんたの所とは違って、最初から私のこの綺麗な顔が目的だったの。  私は、身体が耐えられるようになった中学生から、家で客を取らされたわ。  その前に養父に散々犯されて、身体を慣らされてからね。  妊娠しても客を取らされたから自然に流産して、何度子どもが流れたかわからないわ。  それでも強い子供は流れない事もあってね。お腹が大きくなってから、無理やり闇医者で子供を葬ったわ。麻酔もなしで死ぬかと思ったよ。  同じ双子なのにあなたばっかり裕福な事を知って、憎んだ。  それで、同じような服を着て、名前も明子と名乗って、あの大学に入り込んだのよ。  そう。予定通りあの鈴木って男の罠に嵌ったんだね。  甘ちゃんだもの、騙されるとは思っていたけど、まさかこの年で初めってこともないわよねぇ。」 「違うわ。」 「あら、以外。案外遊んでいたのねぇ。」  パシンッ  明美の頬を優子が打った。 「あんたね、明子がこれまでどれだけ苦労してあの家にいたと思ってるのよ。  明子はね、あの家の、ニセモノの両親の為に沢山の努力をして良い子供を演じてきたのよ。  この大学に入ったのも、あの家の人間は全員が医者にならなければいけなかったから。頑張って勉強してここに入ったの。  勉強ができない時には鞭で外から見えない場所を撃たれたりもしていた。  小学校から同級生の私だから知ってるけど、  あんただけが不幸だなんて、何で言えるのよ。」 「少なくとも身体を売るようなことはしていないじゃない。」  明子はフッと笑って、話し始めた。 「優子にもいってなかったけど・・・私も父親に犯されていたわ。小学校の頃は裸にされて、身体を触られるだけだったけど、生理が安定してからは妊娠しない時期には必ず毎晩父親が部屋に来ていたわ。なんたって医者ですもの。妊娠しない日なんて簡単に割り出せるわ。  母親も知っていたわ。自分が夜の生活をしたくないから知らんぷりをしていたの。」  優子は余りの告白に呆然としている。 「あの、厳格そうなお父さんが・・嘘でしょう?別のBFとでもHしてたのかと思ったわ。」  明美はヒステリックに嗤った。 「結局双子ってのは似たような運命になるってことなのかしらね。  ねぇ、明子。あんたはもう成人しているんだから家から出ても大丈夫よ。  ご両親も自分たちのしてたことばらされたくないからきっと追ってはこないわよ。  私達、二人でどこか遠くに行こうよ。  私、高校に入る前に家を飛び出してからは、色々なバイトをしてお金貯めてるんだ。  あ、今回の事でもし、妊娠していたらあの鈴木ってやつを脅して金をとってもいいわね。今はDNAってやつで簡単に父親がわかるからね。  もし妊娠していたら子供を産めばいいよ。二人で育てよう。  私はもう子供が産めない身体なんだ。  そういえば明子は自分の貯金はあるの?」 「・・・・そうね。もう誰にも身体に触られたくない。あの家にも戻りたくないわ。妊娠はしていない方が嬉しいけど・・もししていたらあなたのいなくなってしまった赤ちゃん達の為にも私は堕ろさずに産むわね。  貯金は小さい頃から溜めていたお年玉が結構な額になっているわ。  使うような余裕はなかったから。お金はある家なのよ。  優子。大学には退学届けを出すわ。  寮からもでるから。完全に私がいなくなるまで黙っていてくれる?」 「わかった。明子にも幸せになる権利はあるもの。  でも、私には居所が決まったら教えて頂戴ね。」  明子と明美は同じ顔をして、今は微笑みあっていた。  引き取られて幸せに暮らす子供が多いのに、里親の意向をきちんと見極めないで引き取られ、同じような目に遭っていた双子。  二人はお互いに認め合って、本物になり、きっとこれから助け合って、生きていかれるだろう。 【了】      
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