花と暮らせば

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 両手に軍手をはめた。休みの日はいつも、起きて一通りのことを済ませたらパソコンに向かっているのだが、今日は違う。  窓を開けてベランダに出る。猫の額ほどの広さだが、日当たりは悪くない。小さな鉢植えひとつくらいなら十分に置けると思った。  まず、一人用のレジャーシートを敷いてビニール袋から鉢とジップロックとを取り出した。こじんまりとしている白い鉢に、土を入れていく。土は十一月の透き通った空気に触れて、軍手越しにも分かるほどしっとりとしていた。  土に触れるなんて(軍手越しだけれど)いつぶりだろう。  思いながら、掬っていくと、いつの間にか底の黒いネットをすっかりと土が隠していた。このネットは水はけを良くするためのものらしく、こちらも真木さんが入れておいてくれたものだ。 「たしか、たっぷり入れちゃダメなんだよね」    ポケットのスマホを確かめようと軍手を外した時だった。  耳にブーンという鼓膜を震わせる音が響いて、反射的に首を横に捻る。  視界の端に黄色と黒の危険な昆虫が見えた気がした。  ――え、うそ。蜂?!  身構えて見ると、アシナガバチのようだった。スズメバチほどではないと聞くけれど、アシナガバチだってかなり強い毒を持っていたはず。刺されたら大変だ。  わたしはその場で大慌てして、ジップロックの袋を蹴飛ばしていた。  あ! と思う間もなく、中に詰められていた土は飛び散って、ほとんどがベランダの側溝にこぼれた。 「え、あ、うそ……こぼれた。こぼれたぁぁぁ?!!」  我に返って叫ぶ。手にしていたスマホを見ると、まだ昼にもなっていない。呆然と足元の惨状を見るともなしに見たあと、しゃがみこむ。 「土……ってこれ、なんの土なんだろうか……」  思考が鈍いままに、軍手をはめたままの方の手で土をシートの上へと集める。側溝は数日前の雨が掃けておらず、そちら側に落ちた土を救済することは不可能だと思われた。 「ホームセンター、近くにあったかな」  土と言えば、たぶんホームセンターだろう。わたしは軍手を完全に外し、最寄りのホームセンターを検索した。  表示されたのは三件。意外とあるようだ。その内のひとつが、自転車でも行けそうな距離だったので、画面を開いたまま立ち上がる。 「よーし、行くかー。ちょっと待っててね」  自分を鼓舞するように言うと、傍らのパンジーの紫を昨日と同じように撫でてみた。  初冬の太陽を反射して、紫の濃淡により一層深みが増したように見えた。
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