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うちのファミリーは、じつに悪趣味な後継者の育成方法を採っている。
殺したターゲットの遺児を、その殺した当人が育てる、というものだ。
遺児にしてみれば、家族を奪った当人に育てられるかたちになる。かつて俺もそうやって育てられたクチで、当たり前だが心穏やかじゃいられない。当然、復讐を考える。
ファミリーは、その復讐心こそを利用するのだ。
復讐に燃える遺児は、家族を殺した暗殺者の殺戮を願う。そんな遺児に、組織はあらゆる暗殺術、破壊工作の方法を教え込む。時には育ての親ーー仇本人にも伝授を強いる。各種銃器の扱いはもちろん、体術に尾行術、毒薬や爆薬の知識に至るまで……だが、育てる側としちゃたまったもんじゃない。相手は、いつか自分に復讐しようと企む被害者の遺児なのだ。
そんな遺児と、暗殺者は一つ屋根の下で暮らさなきゃならない。当然、身を守ろうとする。すると遺児も、ターゲットのガードをどうやってかいくぐろうかと知恵を絞る。そうした日々の中、暗殺の腕もおのずと磨かれてゆくのだ。
やがて遺児たちは念願を果たす。ガキの時点で殺されでもしない限り(その場合、殺した育ての親にはファミリーから残酷な制裁が下る)彼らの復讐は果たされることがほとんどだ。何せ、ターゲットは日に日に老いてゆく。遺児の方は時間が味方になる。彼にとって、最盛期はむしろこれからなのだ。
が、同時にそれは、組織の論理に身を委ねることも意味した。
外の社会では、当たり前だが殺人は重罪だ。たとえ復讐のために成されたものであれ、近代の法論理はそれを許さない。
ファミリーは若き復讐者に囁く。
――ここで俺達に与するなら罪状は伏せておこう。抜けるのであれば、お前の罪は外の論理に任せよう。
若き復讐者にとって、これは事実上の脅迫だ。殺人罪に問われれば、長ければ一生、豚箱で暮らすことになる。自ら復讐を仕向けておいて何を勝手な。だが、それが俺達の住む世界の論理なのだ。
復讐者のほとんどは組織に入り、新たな暗殺者として仕事をこなすこととなる。そうして充分に実績を重ねた頃、新たな命令が彼に下る。ターゲットを殺し、その息子を連れ帰れ、と。
俺とディーノは、概ね、そんな経緯でともに暮らしている。
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