朝食にはいつものパニーノを

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 案の定、ボスの命令は「あのイキったルーキーを殺せ」だった。  面倒な仕事だ。警察内部には協力者も多く、ボスの意向でどうとでもなる部分は多い。が、雑な仕事に銃弾で報いる程度の面子は連中にだってある。 「よりにもよって……また俺か」  ふと、そんな呟きが帰りの車中でこぼれる。  凪の海を渡るヨットよりも滑らかに走るこの車はトヨタ製の高級車で、老犬じみたボロ車ばかりガタピシ走るこの町では滑稽なぐらい目立つ。ただでさえ貧乏な南イタリアの中でもさらに貧しいこの町は、海が青く美しい以外は何の取り柄もなく、町は失業者と、諦めを含んだやけっぱちの陽気さとで満ち満ちている。 「そういえば、カヴァロッティを殺ったのもカルルッチさんでしたね」  運転席の男が、俺の呟きを嬉しそうに拾う。 「俺たち若手の間じゃ伝説になってますよ」 「古い話さ」 「あの時の実績を買われて、今回の仕事も振られたんですかね。いや、羨ましいなぁ」 「……」  ボスに重要な仕事を任される。それは、若い連中にしてみれば栄誉以外の何でもなく、任される俺は確かにヒーローなのだろう。仕事らしい仕事のないこの町における数少ない成功者。  くそったれが。 「あーあ、俺も暗殺者になりたかったなぁ」  目の前でママンの喉を裂かれてもか? とは、あえて問い返さなかった。
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