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序 血染めの渋谷事件
日本が新たな年を迎えてから、半日が経過した昼頃。
真冬の寒さが、太陽の光でほんの少しだけ和らぎ過ごしやすい天気なのもあり、日本の首都、東京は年末年始の帰省や海外からの旅行客などで賑わっていた。
そんな、少し浮かれた空気が漂う渋谷のスクランブル交差点。その中心に突如として、禍々しい雰囲気を放つ『異界への門』が出現した。
その中から現れたのは、中世ヨーロッパで使われていたような騎士風の鎧に身を包み、これもまた同じような中世ヨーロッパ風の剣や槍を持ち、馬に股がった男たちだった。その数は、およそ2000人
先頭に立っていた男が、謎の言語で何かを叫ぶと、近くに立っていた民間人を斬った。
何もしていない、ただ近くに立っていただけ。それだけの民間人を斬り殺した。
それを見て、誰かがあげた悲鳴が、交差点全体に一瞬で広がる。
先頭の男に続くように、後ろの騎士たちも次々と民間人を斬り殺していく。
騎士たちがあげる雄叫び。斬り殺された民間人の苦痛にまみれた声。助けを求め、逃げ惑う人々の叫び声。様々な声が響きわたり、元旦の渋谷は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図とかした。
騎士たちは、無差別に老若男女、国籍、人種問わず、なんの罪もない民間人を殺し続けることわずか5分。
民間人だった屍を積み重ねた肉山の上に、血が染み付いた漆黒の軍旗を掲げ、『門』の中へと去っていった。
その五分後、緊急要請を受けた自衛隊の中央即応連隊がその場に駆けつけた。
しかし、その場所に敵軍は居らず、そこにあったのは既に息絶えた民間人の遺体と、破壊し尽くされた車や建物だけ。スクランブル交差点の象徴でもある、ハチ公像は人々の血に染っていた。
その後に行われた、迅速な人命救助により助かった者から聞かされた話は、まさに地獄と呼んでも差し支えないような惨状だった。
───2025年1月1日 13時00分
東京都、渋谷区、渋谷スクランブル交差点に謎の門らしき建物が突如として出現。
『門』より現れた騎士風の者たち約2000人により民間人が虐殺される事件が発生。死傷者は、約3000人にも及んだ。
このニュースは、一瞬にして世界中に広がり、新年ムードだった世間に恐怖と衝撃を与えた。
そして、この事件はネットでこう呼ばれるようになった、『血染めの渋谷事件』と。
日本政府は、この緊急事態に対応するために急遽、臨時国会を招集した。
この臨時国会では『門』の今後の扱いや『門』の向こう側──『異界』への対応が話し合われる。
そして、臨時国会招集から1週間後。
『アナザーワールド自衛隊派遣処置法案』が衆参両議院で異例の満場一致により可決された。
支持率がうなぎ登りで、今では80パーセントにも届くかと言うところまで来た、時の首相。菅原 信介の「国民が殺されたんだぞ!それでも国会議員か!」と言う名言は、この国会での答弁で生まれた。
そんな、菅原首相はその後の記者会見にてこう発言した。
「この法律は、あくまでも一時的な処置に過ぎない。今後の『異界』内部での状況によっては、対応を変える必要がある。そのため場合によっては憲法改正にも踏み込むことも辞さない。
しかし、今はまだ『異界』内部の国家や情勢を知ることがら最も重要と判断したため、派遣する自衛隊の軍備増強を早急に進める必要がある」
これに対し、米国政府は「今回の事件では、我が国民も殺されている。我が国は、日本国に対して協力を惜しまない」との声明を出した。
これを皮切りに、世界各国も日本に対する支援を次々に表明した。
しかし、そうでない国もいた。
露中韓の3カ国は、「この事件は、日本国政府の怠慢が招いた事件である。日本国政府の怠慢を強く非難する」との共同声明を行った。
そして、法案可決から2ヶ月後。
自衛隊の新部隊、異界方面隊が、札幌、渋谷、博多の各『門』を通り『異界』へと突入して行った。
今はまだ誰も知らない。世界が混沌へと歩み始めている事を。
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