5章

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話しかけている私とは対照的に美穂はどこか上の空な様子で私の声は車の走行音に書きけされていった。 家に到着すると私はすぐに夫の部屋にあったものを捨て始めた。全てゴミ袋にまとめた。 使えそうなものも全て袋に詰めていった。 一通りのものをゴミ袋に詰め終えると夜中になっていた。 ものを捨てたことによって、何か次のステップに進めたような気がした。 私はそのまま眠ることなく今後のことを考えていた。 私の育ち方は間違っていたのだと知ってしまった今、子供の頃から重ね続けてきた感性や常識など捨ててかまわなかった。 いかに美穂をただしい方向に導けるか、私が考えればいいのはそれだけだった。 私は自分の周りで正しかった人を思い浮かべた。 しかしいくら考えても自分が正しいと思ってここまで生きてきたため、誰も思いつかなかった。 そんな私が正しくなかったなんて本当に夢で会ってほしいと心の中で弱音が漏れてきそうだった。 しかしそんな時、自分の人生の中で唯一私が正しくなかったと教えてくれた正しい人間を思い出した。 私は美穂に、夫のような人間になってほしいと思った。 気付くと外は明るくなっていた。
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