5章

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まとまらない言葉と理解できない娘の気持ちは、まとめて非難となって美穂の耳に届いた。 私は同じ病室にいることが辛くなって病室を出た。部屋を出てすぐに私はまた失敗してしまったのだと思った。 一生懸命美穂を育ててきたつもりだった。 それでもこんな失敗をしてしまうのならもういっそ関わらないことが一番美穂のためなのではないかと私は思った。 そうして私と美穂の関係はここまで破綻してしまったのだ。     * 母は時々苦しそうに涙を堪えるように上を向いたり、目頭を強く抑えたりしながら話し続けた。 母が私にしつこく言い続けていたあの『親切』という言葉もそのルーツを知った今、どこか具体性に欠けていた理由も、どうしてある日突然しつこく言い始めたのかも全て納得がいった。 私は長年かけてできた深い深い溝に今、踏み込んだことがない領域まで手を伸ばしているのだと改めて実感した。 海岸での出来事も母はおそらく嘘を言っていないと昨夜見た夢と照らし合わせ悟ったためか、不甲斐ない母と起きていることを何も理解しないまま土足で踏み込んでいた幼い頃の自分の残酷さが、話終わった後も嫌な残像となって残っていた。
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