1章

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これは明らかに僕の言い方が悪かった。こんな言い方をするつもりは無かったのだが、思ったのと同時に声が出ていた。 こういう時に自分のコミュニケーション能力の低さに嫌気がさす。 彼女は戸惑いながら 「何のため、とかは考えたことなかったかな。 お母さんに小さい頃から、周りの人に親切にしなさいって言われてたから、とかかな? 今はこれくらいのことはやって普通だと思ってるし…」 彼女は最初こそ戸惑っていたが、ごくごく普通に答えてくれた。 やはりそうなのか。小さい頃からそう教えられて育つとこうなってしまうのか。 親切にしてもらったのは僕の方なのに、僕はこの子に対してかわいそうだと思ってしまった。 「それって辛くない?」 「辛い?」 僕はここで彼女にはっきりと親切の残酷さを教えてあげることが、彼女のためになるのではと考えた。 「だって親切にしたところで自分にはスカスカの感謝の言葉しか返ってこないだろう?そんなのを糧にして親切に振る舞うのはあまりに損じゃないか。何か返ってくるわけでもないのに」 彼女は微笑んだままだが微かにその笑顔に悲痛さを感じた。僕は続けた。
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