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プロローグ
太腿に赤い一本の筋が浮き出る。
頭にのぼったままになった血を抜くように。
心に溜まった膿を出すように。
明日も優しい私でいられるように。
一人の時にだけ現れるもう一人の私はこうしていつも、壊れかけた私を修理する。
瘡蓋だらけの太腿を見ながら今日新たにできた一本の筋を眺めながら心を落ち着ける。
膿を出して優しさを取り戻した私はまた涙を溜めながら、また思う。
「きっと私は大丈夫」
街から灯りが消えた頃、窓から差し込む淡く優しい光に気づく。
それが月だと気づいた時、月が私の血と涙だけを照らしているような気がした。
照らされた傷口はまだ真新しさを残しながら微量の血を傷口から排出している。
その様子をまじまじと見ながら自分の心が全く動いていないことに気付く。
「私は大丈夫」
動かぬ心と少し離れたところにいるもう一つの私の心は、また『大丈夫』と自分の心に言い聞かせた。
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