ハッピーエンド

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「薬局は患者さんがその日の最後に訪れる医療機関だ。それを常に頭を置いて、患者さんに寄り添う言葉を心がけてね。誰だって気持ちよく帰りたいからね」 「人が為すと書いて『偽る』、人の夢と書いて『儚い』、人は偏ってしまうし、傾いてしまう。でもね、人を言葉は信じるようにね。それが寄り添う姿勢だよ」 「薬剤師は専門職だ。専門職の陥りがちなケースは独善的になってしまう事だ。『正解』や『真実』を知ってしまっているからね。でも、現実的じゃない事だってある。理想と現実の差を埋めるのも大事な仕事だ」 「人と接する仕事は時として重い質問を受ける事がある。そんな時、答えを返せる自信はあるかな?無いのであれば、何でもいいから本を読もう。専門知識も大事だけど、きちんとした教養を身につけてこそ一人前の社会人だよ」  これが松宮さんが私に対する最初の指導だ。うぶな私はいたく共感したものだ。  松宮さんはスマートで容姿も整っている。話題も豊富。同期からは随分と羨ましがれた。 「竹原さんは何かに打ち込んだ事はあるかな?」  そう松宮さんは柔和な笑みを浮かべて、私に尋ねてきた。 「高校の時はテニスをしてました」 「テニスかあ。試合時間も長いし、引き分けも無いハードなスポーツだよね、サッカーや野球と違ってコツコツとポイントを積み重ねないといけないし」 「そうなんですよ。それにコートの中は孤独ですし、勿論、応援は力になるんですけど」と私は返した。 「孤独。試合を見てると確かにそうだね。大会とかは出たのかな?」 「県大会までです。大した事はありませんよ」 「それは凄いね。大したものだよ」と松宮さんは言い、眩しいものを見るような視線を私に向けた。「何かに打ち込んだ人には魅力がある。そんな人の言葉には重みがある」  その時の私は随分と嬉しかったものだ。  でも、松宮さんは打ち込んだものなんてないんだろうな。だって松宮さんの言葉は空気みたいな重さだ。
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