ハッピーエンド

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 今日も松宮さんと患者さんの会話が聞こえてくる。やれやれ。 「食べ過ぎちゃったよ。松宮さん」と患者さんはあっけらかんと言った。見事な太鼓腹の狸爺さんだ。 「体重、増えちゃいましたか、血圧も。146ですか。ちょっと高いですけどね。ははは。仕方ないですよ。忘年会で引っ張りだこじゃ断れないですよ」と松宮さんは返した。  いや!血圧、146って凄く高いから!基準値オーバーだから!もっと言うべき事!あるだろ? 「HbA1c、7を超えちゃいましたよ。嫌ねぇ。クリームパンだけが私の生きがいなのに、先生は止めろって言うのよ」と患者さんは愚痴っぽい。こちらはむくんだおばさんだ。きっと外に出たり運動しないのだろう。肌は白い。それも不健康な白さだ。 「7はやっちゃいましたね。でも、クリームパン、私も好きですからね。やめろなんて言えないな。不味いもの食べて長生きするより、クリームパンで太く短く生きるかなあ」と松宮さんは笑った。  いや!笑い事じゃないから!HbA1cが7は高過ぎるから!ちなみにHbA1cは1〜2ヶ月の血糖値の推移が分かる数値だ。6.2以上は高値だ。このままだと失明や足の切断だから!クリームパンって目や足と同じぐらい価値のあるものなの? 「……僕……気にし過ぎなんですかね。周囲の声とか……」と患者さんは囁くような声だ。こちらも不健康な白さの優男さんだ。体型は普通だが目には精気が感じられない。ちょっと怖い。 「そうかも……知れませんね。でも、気に過ぎだからこそ、気づく事ができる細やかさも大事な資質かも知れませんからね」と松宮さんは自分を見つめ直す機会をぶち壊した。  コイツ、患者に寄り添うなんて御託を並べるけど、患者さんが言って欲しい事を垂れ流してるだけじゃないの?  人の言葉を信じろ?いやいや、調子の良い言葉を並べて、患者から儲けようとしてるだけじゃないの?
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