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「えっと、そのう、父は秋には施設に入る事になっています。本当はすぐにでも入れたいのですが、空きが無くて」と山本さんは歯切れの悪い口調で言った。
「そうですか。施設は良いと思いますよ」と松宮さんはさらりと返答した。
「そう言って頂けます?なんだか姥捨山みたいで」
「いえいえ、しっかりした設備とスタッフがいます。姥捨山なんてとんでもない」と松宮さんは言い、声のトーンを落として続けた。「下手に同居しますと、介護する側もされる側も消耗してしまいます。悲しい事ですが、介護が終わった時、残された家族には恨みと憎しみしか残らないケースをたくさん見て来ました。施設に預けて、時折、遊びに行く。これくらいの距離感を保った方が、旅立つ時に愛情だけが残ります」
「そう言って頂けると気が楽になります」と山本さんの顔が明るくなった。その分、私の気分は落ちた。
「それで、お願いと言うのはなんでしょうか?」
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