甘酸っぱい約束

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お母さんの指にキラキラと光り輝く指輪。 「うわぁ、きれい……」 お母さんはしまっていた指輪を取り出して薬指にはめていた。 指輪が光の加減でキラキラと奥まで光る。 私は魅入られてしまった。 「アンナはあと10年くらい大きくなってからかしらね?」 ふふ、と笑うお母さん。 「おい」 うっとりとした顔をしていつまでも指輪を見つめていると、うちに遊びに来ていた幼馴染のシュウくんが、私に放っておかれたと思ったのか面白くなさそうに声をかけてきた。 シュウくんの声は私の耳に届かず、はからずも無視をした形になってしまった。シュウくんは私の腕を少し乱暴に引っ張る。 「駄菓子屋にいこうぜ。お母さんからお小遣い貰ってきたから」 「えー、まだ見てたいのに」 家の近くにある駄菓子屋。シュウくんに腕を取られてずるずると連れてこられた。 私はお菓子より指輪を見ていたかったのに。 むっつりとした顔で腕を組み、シュウくんの小さい背中を睨みつけた。 シュウくんはお菓子を買わずに駄菓子屋の前に置いてあるガチャガチャを回した。 「ほら、コレやる」 ガチャガチャのカプセルを開けて小さな透明のケースに入った容器を渡してくる。 開けてみると、中には大きなハート型の赤い指輪が入っていた。 どうせ貰うなら……。 「……透明なのがよかった」 「……大人になったらホンモノ買ってやるよ」 「ほんと? 約束ね」 「おう」 高校生になり、シュウくんはイケメンでモテモテになった。 クラスも違うし、話すこともほとんどなくなって、遠くから女の子たちに囲まれているのが毎日目に入ってくる。 私はあの時貰った指輪を今でも持ってる。 自分の部屋の引き出しの奥にしまっているハート型の指輪。 もう捨てちゃおうと何度も思うんだけど、なんだか捨てられない。 (きっとシュウくんはあの約束は忘れちゃっただろうな) 私は学校の裏庭に呼び出され、同じクラスの男の子に告白された。 「付き合って欲しいんだけど」 「あ、……えっと」 「返事はまた今度でいいから」 初めて告白された。 告白してきたクラスメイトの鈴木くんも私も緊張して、目も合わせられないくらいだった。 ちらりと見えた、私に告白する照れた顔が可愛くて、キラキラしてた。 告白された後、今まで気にもしたことなかったのに、鈴木くんがものすごくかっこよく見えてきた。 学校ではお互い意識しちゃってギクシャクしてしまう。 数日考えたけど、私は鈴木くんと付き合おうかと思い始めた。 学校が終わり、告白の返事をしようと彼に声をかけようとした時、後ろからシュウくん珍しくに声をかけられた。 「おい」 「なに、シュウくん」 「ちょっとこい」 腕を取られて、引きずられるように帰り道を一緒に歩く。 駄菓子屋の前を通りかかる。 「ちょっと待ってろ」 「ちょ、シュウくん」 シュウくんが店内に入って行き、すぐに店の外に出てきて、ん、と手を差し出された。 「それやるから」 両手で受け止める。 「え、なにこれ?」 「アメ」 手の中に落ちてきたのは駄菓子のアメだった。 赤いキャンディリング。 指に付けながら舐められるように輪っかの上に大きなダイヤのようなアメがついていた。 「なんでアメ?」 「昔の約束、俺……忘れてねえから」 「……約束ってなによ。そんなの、しらないよ……」 「ホンモノ、まだ渡せねえけどさ……俺と付き合ってよ」 「……」 シュウくんは約束、忘れてなかったんだ。 家までの帰り道、シュウくんと手を繋いで歩いた。 何を話せばいいのかわかんなくて、話題も浮かばない。 でもぎゅっと強く右手を握って離さなかった。 私は反対の手の指に真っ赤なキャンディリングのアメをつけていた。 赤いアメを口に入れると、甘酸っぱい味が口の中に広がっていった。
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